『第三の男』

 「第三の男=エビスビールのCMソング」。あの曲がエビスビールのコマーシャルに使われてどれ位たつのだろう。TVの影響というのは恐ろしいもので、チターの音色、あのメロディーを耳にすると、自動的にビールグラスの泡が思い浮かぶ。しっかり刷り込まれてしまっている。情けない話だが、同じようなヒト結構多いのではなかろうか。

 これではいけないと思い、映画を観る事にした。キャロル・リード監督、1949年の作品なので、封切り当時20代でこの映画を観た人は今や80代。所謂「名画ベスト100」的なランキングの上位に必ず名を連ねる、名作中の名作だ。第二次大戦後、占領中のヴィーンにアメリカ人の小説家ホリーが到着するところから映画は始まる。ホリーを呼び寄せた当地の友人宅を訪ねると、彼はなんとトラックに轢かれて死んでしまっていた・・・。友人の死に疑問を持ったホリーが、異郷の地で謎に立ち向かうというミステリー映画なのだ。

 音楽はアートン・カラスという1906年生まれのオーストリア人。リード監督がロケ地ウィーンで彼の音楽と出会い、用意されていた映画音楽から切り替えさせたそうだ。よっぽど気に入ったのだろう、オープニングとともに流れるチターの音色、イキナリあの曲で始まるわけだ。この映画、一部を除きBGMはすべてアーントン・カラスのチターが流れるのだが、驚いたことにその殆どが長調の曲なのだ。友人の謎の死をめぐってのミステリー映画なのだから、シリアスな雰囲気の短調の曲を、というのが普通の考えだろう。楽器にしても、よりダイナミックな表現のできる楽器、緊張感を漂わせることのできる楽器は他にいくらでもありそうなものだ・・・。しかしこう考えるのはきっと凡人の「下手な考え」なのだろう。監督の所謂「逆張り」はこの作品を不朽の名作にしたファクターの一つなのかもしれない。

 さて、映画を観たおかげで、エビスビールの刷り込みからは解放されたと思うが、監督の「逆張り」については今ひとつスッキリしていない。昔の映画だ、きっと既に語りつくされているのだろうとも思う。誰か知っている人がいたら教えて欲しい。軍司貞則という人が『滅びのチター師〜「第三の男」とアントン・カラス』いう本を書いている。今度読んでみようと思う。

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