『Driving in the silence』


 坂本真綾の新しいアルバムの一曲目はピアノの軽やかな音色で始まる。2声のコーラスが重なる6小節のイントロ、ピアノの右手が刻む8分音符が、冬の夜に音も無く降り続ける雪を思わせる。「君を好きになることは、自分を好きになること・・・」坂本真綾の歌声は冬の朝の凛とした空気のように澄んでいる。このアルバムのコンセプトは「冬」、それも「インドアな冬」。家の中のパーソナルな空間や近しい人達と一緒にいる空間をイメージしたのだそうだ。

 「冬」と言えば思うのだが、夏生まれの自分は寒さに滅法弱いくせに冬のことを嫌いじゃない。むしろ好きだ。冬の晴れた日の青い空と白い太陽が好きだ。冷たく澄んだ空気、葉っぱを落とした街路樹、色とりどりのイルミネーション、オリオンの三ツ星を見上げるのも大好きだ。地下鉄の入り口まで木枯らしに舞う枯葉と駆けっこするように小走りするのも悪くない。温かなウールのコートと革の手袋、そして背中には貼るカイロが必須なのだけれど・・・。

 冬をコンセプトにしたこのアルバム、サンタ、雪、クリスマス、リンゴ・・・。一曲一曲が素敵な冬のデッサンになっている。そしてその最後を飾るのは『誓い』という曲。作詞作曲坂本真綾、3月11日の東日本大震災の直後に作ったのだいう。「そして冬が終わる 憂いを振りほどいて・・・」控えめで間接的な表現ながら、彼女なりの応援歌だ。振り絞るようなボーカルが心に沁みる一曲、いつかライブで聴いてみたいと思った。2011年、結婚という人生の節目を迎えた坂本真綾。抜群の歌唱力と類まれな表現力をあわせ持つ彼女がこれからどう変わっていくのか。興味津々、見守っていきたい。

Driving in the silence(初回限定盤)(DVD付)

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