道後温泉


 仕事の関係で松山にはとても縁が深い。毎月1度か2度、この町を訪れる。松山出張は飛行機が基本だ。小さな可愛らしい松山空港は町の中心からほど近く、とても便利だ。

 さて、出張即ちビジネス。世知辛い話だが、昨年来の不況の影響を受けないわけにはいかない。経費は節減したいが、商社マンとしては訪問の回数を減らしたくない。そこでいきおい深夜の高速バス利用を思いついた。従来の日帰りが車中2泊の出張と相成るが、経費はほぼ半額になる。

 車中泊の難点は風呂に入れない事だ。しかし松山には名の知れた道後温泉がある。深夜にバスに乗り、早朝松山に着くのだが、「道後温泉駅前」という停車場がある。ここでバスを降り、道後で朝風呂、身も心もリフレッシュしてビジネスに臨む。一日しっかり仕事して、夕刻再び道後の湯につかる。癒しのひと時、そして再びバスに乗るわけだ。今年に入ってからすでに20回近く道後温泉のお世話になっている。

 道後温泉には1階と2階に温泉がある。いつもは400円払って1階の「神の湯」に入るのだが、今日は奮発して2階にある「霊の湯(たまのゆ)」に入り3階の個室で休憩できる1500円コースにチャレンジした。まずは6畳程の和室に案内され浴衣に着替える、まるで旅館に泊まるような気分だ。その後、皇室専用温泉又新殿(ゆうしんでん)を見学。係の人が丁寧に解説をしてくれる。同じ建屋に皇室専用の浴室と一般用浴室の両方があるのは、日本全国の温泉でもここ道後だけだそうだ。その後霊の湯で入浴と相成るのだが、これがまた素敵な温泉なのだ。1階神の湯は銭湯のような大きな風呂で、それはそれで情緒あるいい湯なのだが、2階霊の湯は小ぶりでプライベート感あふれるお風呂。小ぶりとは言っても家庭用の浴槽とは比較にならない大きさで、少し深めの浴槽から透明の湯がなみなみとあふれ出ている。先客は1人のみ、手足を思い切り伸ばして湯につかると何だかとてもリッチな気持ちになれる。

 夏目漱石がこよなく愛したという道後温泉につかった後、お茶をいただきながら浴衣姿で一人くつろぐ。開け放たれた縁側から入る自然の風はクーラーの風よりずっと心地よい。夏の夕暮れを十二分に堪能できた一日だった。