『Living Hands』

先月訪れた心斎橋筋商店街で偶然出会ったSHEENAというアイリッシュを演奏するグループの1stアルバム、『Living Hands』を聴いた。定番のアイリッシュ・トラッド(アイルランドの伝統音楽)を中心に全13曲のアルバム。

 古い音楽の場合、作曲者による楽譜が残っていないのは当たり前。フォルテやピアノや速度記号などの演奏上の指示も当然ない。楽器の指定も無くて、あるのは旋律一本のみ、なんて事もある。一本の旋律からイメージを膨らませ、一つの作品に仕上げるのは演奏者の手腕にかかっている。19世紀の音楽が作曲者によって事細かに指示されているのと対照的だ。自由ではあるが、とりあえずの合格ラインというのが無い。古い音楽を演奏する醍醐味であり苦しいところでもある。

 このアルバムの印象は「瑞々しい」。1stアルバムということもあろう、若々しく軽やかで、楽しげだ。旋律を奏でるフィドル(ヴァイオリン)やアイリッシュ・フルートと多彩な楽器とが気持ちよく絡み合う。全体的にはポップに仕上げられているけれど、ケルトに古くから伝わるメロディーを大切に、一曲一曲が丁寧に演奏されている。ポップなアレンジにも嫌味が無い(=オジサンもついていける)、彼らの趣味の良さだろう。

 アイリッシュとの出会いは10年以上前、守安功さんの演奏を間近で聴いたのが始まりだ。アイルランドと日本を行き来し、本場の演奏家との交流も深い守安さんの演奏は衝撃的だった。その後何度か守安さんの演奏に触れるにつれアイリッシュが好きになり、アイリッシュ・フルートが欲しくなった。その夢は果たせずにいるが、悲しげでどこか懐かしいアイルランドの音楽は日本人の心に響くものがあると信じている。そんなアイリッシュを演奏する若き才能を応援したくなった。

Living Hands
アーティスト: SHEENA
メーカー/出版社: Studio Orque
発売日: 2009/03/18
ジャンル: ポピュラー音楽