ラ・プティット・バンド


 休日の午後、大阪市北区ザ・シンフォニーホールへ足を運んだ。シギスバルト・クイケン率いるラ・プティット・バンドの来日公演、サブタイトルには「古楽器が魅せるバッハの真髄」とある。ブランデンブルク協奏曲から4曲(2,3,5,6番)、管弦楽組曲から1曲(2番)、オール・バッハ・プログラムだ。

 照明がゆっくりと落ち、会場の空気がピンと張り詰める。メンバーが登場しブランデンの2番が始まった。リコーダー、ヴァイオリン、オーボエ、トランペットの4重コンチェルト、実は生で聴くのは初めてだったので本日一番楽しみにしていた曲だ。第一楽章、明るいヘ長調の主題を四つの楽器が代わる代わる奏でると思わず体が反応する。アルトリコーダーを吹くのはシギスバルト・クイケン実弟でありトラヴェルソの名手、バルトルド・クイケン。大きな体にリコーダーが可愛らしい。楽器に無理をさせない、端整な演奏だ。ナチュラル・トランペットを演奏するのはジャン=フランソワ・マドゥーフ。バッハの時代のトランペットにはピストンもロータリーも指穴さえも無い。口の動きだけで全音階を出すのだから神業だ。実際何度か音が外れたり飛んだりしたが、右手で楽器をむんずと掴み、左手は腰に。右足を一歩前に出し、胸をはって演奏する姿は神々しくも見える。4つの異なる音色が織り成す錦模様。アンサンブルの魅力と楽しさ満載のこの曲をこの人達の演奏で聴けることは幸せだ。

 ブランデンの5番ではソロ・ヴァイオリンを奏でたシギスバルトだが、それ以外の曲ではヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという楽器を演奏した。”肩(Spalla)のチェロ”は彼が復興に力を注いでいるバロック時代の小型のチェロ。首から紐で吊るして胸の前の高い位置にギターのように構え、弓をタテに動かして演奏する。調弦はチェロと同じだが音色はチェロよりずっと明るく、高音域はチェロより演奏しやすそうだ。ブランデンの3番はヴァイオリン3、ヴィオラ3、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ3、通奏低音2の11名で演奏されたのだが、チェロパートの音がハッキリと際立ち、9つのパートの絡みがとてもいい具合に聴こえる。終楽章のジーグの軽やかさには正直驚いた。

 2月の終わりにチケットを予約してから4ヶ月と数日、待ちに待った今日のコンサート。3月の震災があったため、公演中止の葉書が届いいるのでは・・・と、毎日郵便受けを見るのがドキドキだったが、心配は杞憂に終わってくれた。会場で渡されたザ・シンフォニーホールの情報紙にシギスバルトのインタビューが載っていた。「今回のツアーは、私どもに心の痛みを及ぼした原子力発電所の事故という大変な被災の中とあって特別です。ツアーに参加するメンバーは、演奏を通して日本の方々の苦悩と連帯感を表し、心からの喜びそして勇気付けられることを願っております」。わざわざ地球の反対側まで来てくれたのだと思ったら目頭が熱くなった。


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