雲崗石窟

 9月の週末、山西省大同市の雲崗石窟(云冈石窟)を訪ねた。一年前の国慶節に大同と洛陽を旅行したとき、新型コロナウイルス対策で観光地が軒並み営業停止で入ることができなかったため、今回はリベンジツアーだ。前日に大同入りし車で石窟へ向かう。朝の開門を待つ入り口には多くの旅行客、ただの週末なのにさすがは世界遺産だ。好天に恵まれ、絶好の石窟日和だ。

 

 綺麗に整備された道を進み、新しく建てられたお寺を過ぎしばらく歩くと石窟エリアが始まる。小高い山の崖一直線に石窟が並ぶ姿は敦煌莫高窟や洛陽の龍門石窟ととても似ている。ここ雲崗石窟北魏時代の460年から洛陽に都が移るまでの間、約20年かけて作られた50以上の石窟が約1kmに渡り続いている。石窟のある岩山は砂岩でできており、中には同様に岩山を彫って作られた石仏がある。龍門石窟同様、むき出しの小さな石窟は風化が激しいが、深く横穴を彫って作られた大きな石窟では中央の仏像はもちろん、壁や柱、天井の隅々まで掘られたレリーフが残っており、そこに施された彩色も鮮やかだ。見学客は多いため、混み合う石窟では係員のおっちゃんが拡声器で「走走走!!(進め進め進め)」とやかましい。厳かさなど皆無、中国観光地ではよく有ることだ。

 

 第12窟はここ雲崗石窟で最も芸術的で「音楽窟」とも呼ばれているそうだ。壁面のあちこちに琵琶や琴、笙、横笛や鼓など44種の楽器を奏でる姿のレリーフが彫られ、北魏時代の音楽や舞踏の研究者にとって貴重な資料なのだそうだ。少しデフォルメされふくよかな体つきの楽師さん(?)達の姿が可愛らしく、見ているだけで楽しくなった。

 

 石窟群の中央少し奥に第20窟の大きな石仏がある。ごく初期に作られた高さ13.7mの坐像はガイドブックや旅行動画で必ず登場する雲崗石窟のシンボル的存在だ。見上げる人多数、記念撮影のベストスポットだ。この第20窟、元々は敦煌の第96窟のように外側を覆う建物が作られていたのだが、これが900年前の地震で倒壊してむき出しになったため、有名になったのだそうだ。観光資源として売り出すためにも、中心となるモニュメントは重要だ。歴史的、学術的な価値も高かろう第20窟、覆いが取れたことで図らずも雲崗石窟の顔としての役割まで授かった。人生(?)何が幸いするかわからないものだ。

 

 上海に住んでもうすぐ4年、今回の旅で中国四大石窟と呼ばれる敦煌の莫高窟,大同の雲崗石窟(云冈石窟),洛陽の龍門石窟(龙门石窟),天水の麦積山石窟(麦积山石窟)をすべて巡ることができた。三大石窟に行ったという人は多いが、麦積山石窟を加えた四大石窟を回った日本人はそう多くはないだろうと、少しマウント取った気分(笑)。上海で知り合った日本人友達が石窟好きで誘ってくれたのがきっかけだが、元々歴史や遺跡が好きなことと相まって、楽しくコンプリートさせてもらった。人との縁の為せる技だ、本当にありがたい。どの石窟も素晴らしく、それぞれに味わいが異なって思い出深いが、共通して思うことは、歴史と仏教美術、そして仏教そのものについてもう少し知識があれば、もっともっと面白いだろうに・・・という事だ。「○○時代の特徴がこのあたりに出てるね」「お釈迦様の○○○の教えが見事に描かれてるな」「こんなに△△な○○菩薩像は初めてだ」などと、感動の質も量も違ってくるだろう。もちろんそんな知識無しでも十分楽しめて感動できているのだが、ガイドさんが歴史や仏像について解説をしてくれた時、基礎となる知識が非常に薄っぺらなため「ふーん、そうなんだ」としか思えない事が悔しい。逆にそのあたりの知識豊富な人から見れば、猫に小判、豚に真珠、馬の耳に念仏・・・。殴りたくなる程もったいなく罰当たりな奴なのだろう、本当に申し訳ない。