宝塚歌劇『ファントム』

 生まれて初めてタカラヅカを観てきた。勤め先恒例の春の行事、毎年費用会社持ちでコンサートや演劇を観に行くのだ。大阪支店が予定していたシュトゥットガルト室内管弦楽団の演奏会が震災の影響で公演中止となってしまったので、急遽代替案として浮上したのがタカラヅカ。大正時代からの歴史有る歌劇団、せっかく関西にいるのだから一度は観ておきたいと思い決定した。

 梅田から阪急電車に乗って宝塚駅で降りると、梅雨明けの日差しがまぶしい。「花のみち」をゾロゾロと流れに乗って歩く事しばし、程なく宝塚大劇場に到着した。ほぼ満席の会場は予想通り女の人が多く、9割は女性だが、男性客の姿も見えホッとする。開演を待つ間、客席でお弁当を食べている人がいたのにはビックリした。

 この日の演目は花組による『ファントム』、オペラ座の怪人だ。主役のファントムを演じたのは蘭寿とむ、トップスターとなって初めてのお披露目公演なのだという。女声による男歌は最初のうちこそ違和感を感じたが、いつの間にか慣れていた。手足が長く、ダンスが映える。そして堂々とした立ち居振る舞いが実に男らしくカッコイイ。タカラヅカで男役に人気が集まるのが分かる気がした。ヒロインのクリスティーヌは蘭乃はな、歌は今一つだったけれど、可愛らしい娘役だ。純粋な心を持つファントムの内面の葛藤にスポットを当て、それに応えようとするクリスティーヌとの悲恋を描く。ファントムの生誕の秘密にも迫っていて、一年前に観た劇団四季『オペラ座の怪人』とは随分違う内容だった。

 『ファントム』が終わるとラインダンスが始まり、舞台には大階段が登場した。主役級はソロで歌いダンスを披露する。階段から次々と登場するスターに客席は手拍子で応える。これがおよそ20分続き、全員が並び幕となった。『ファントム』も良かったが、最後の大階段が「これぞタカラヅカ!」とばかりに強烈で印象的だった。

 幕が下りるとすぐに客席が明るくなり、皆そそくさと席を立つのには少し驚いた。鳴り止まぬ拍手と何度も続くカーテンコール・・・というのがタカラヅカには無いようだ。恐らくカーテンコールを様式化したのが大階段なのだろう。おしまいが分かりやすく、「まだ有るの?」「もう終わり?」と心悩む必要がない。関西流の合理的な文化なのかも知れないが、何だか物足りない気がした。さてさて、初めて観た宝塚歌劇、回りは女の人ばかりで我々オジサン集団は浮いてしまうのでは・・・と心配していたのだが、それも杞憂に終わり、皆それなりに楽しむことができたようだ。「蘭寿とむって、ファントム役だからとむなんですか?」とボケをかましてくれたのは、唯一Tシャツ姿でやって来たN君。彼にはドレスコードの他にも色々と教育する必要があるようだ・・・。