『LIBERTANGO IN TOKYO』


 ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子のライヴ盤。2011年9月3日「東京JAZZ2011」。これまで何度も競演を果たしているジャズ・アコーディオンリシャール・ガリアーノとの競演、バックは13人編成の「オーケストラ・カメラータ・ドゥカーレ」。アルバムタイトルにもなっている「リベルタンゴ」「忘却」等A.ピアソラの作品を軸に、「オパール・コンチェルト」「メロディセリ」等ガリアーノのオリジナル曲、そしてタンゴの名曲「ラ・クンパルシータ」も収録されている。

 寺井尚子はこれまで何度もピアソラの曲を取り上げている。ピアソラの音楽はブエノスアイレスの場末の酒場を思わせる。喧嘩っ早くて女好きのワルが集い、酒を浴びるほど飲み夜を明かす。タバコの煙と怒声、片隅で泣いているヤツもいる・・・。そんな情景が目に浮ぶ泥臭さが気に入って、自分も一時よく聴いていた。寺井のピアソラは、どこかソフィストケートされてエレガントな仕上がりなのだが、それでいて熱く激しい。「ちょっと違うのだけれど随分カッコイイ」そんな印象だ。基本的にタンゴはものすごく「格好つけ」の音楽だと思っているので、これもまたアリなのだ。このライヴ盤では「鮫」が小粋でキザな演奏でカッコイイ。

 ピアソラ作品以外で特に印象に残ったのは2曲目、ガリアーノ作の「マルゴーのワルツ」。ヴァイオリンの甘く切ないメロディーにアコーディオンが情感を添える。ウットリしていると、後半でテンポを上げながら早弾きのユニゾンが続き、スリリングさにのけぞる。この曲は2001年リリースの寺井尚子のアルバム『All For You』でも二人の競演で収録されている。聴き比べてみたら、今回のライヴの方が伸びやかで緻密な印象。とても気に入った。

 オーケストラをバックにヴァイオリンとアコーディオンの二つの音色が交錯して火花を散らすようなステージが目に浮ぶ。何度も聴きかえしたくなる一枚だ。

リベルタンゴ・イン・トーキョー
アーティスト: 寺井尚子
出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
発売日: 2011/12/21
メディア: CD