『こうして会社を強くする』


 「働く日本人の8割はサラリーマン」と言われる。星の数ほどある会社の一つひとつが強くならなければ、未曾有の大惨事からの復興もあり得ない。そんな気持ちで手に取った一冊。社員8名で創業した京都セラミックを世界の京セラに育て、名経営者の誉れも高い稲盛和夫氏が主宰する「盛和塾」という塾がある。若手経営者のための経営塾だ。この本はその盛和塾での勉強会の内容をまとめたもの。塾生から投げかけられた34の質問に一問一答式で答えている。

 先行投資のタイミングはどう考えるべきか?低収益から脱却するには?といった具体的な質問もあれば、トップの器になるには?名経営者の条件とは?燃える闘魂をどう体得するか?といった抽象的な質問もある。進出・撤退を決断する物差しとは?中小企業の世襲制は是か非か?といったいかにも経営者の悩みといったのもある。そのそれぞれに塾長稲盛和夫が丁寧に回答しているのだが、あるときは細かく分析的であり、あるときは思想的、哲学的な切り口で塾生に道を示す。

 印象的な言葉を一つ。企業の最終決定者である経営者は何をもって意思決定するのか。それは「心の中の座標軸」だという。何を是とし何を非とするか、ぶれない判断基準を稲盛氏はこう言い表した。そして、稲盛氏自身は創業の頃、「人間として何が正しいのか」「原理原則に基づいて経営する」ということを心の座標軸に置いたのだという。

 ともすれば自身の欲望やその時その場の状況に流されてしまうのは人の常だ。自分を振り返れば、部下に指示を与えた後で矛盾を感じ、一人自己嫌悪に陥ることが何度もあった。ただ一生懸命に働くだけではなく、常に持ち続け立ち返る「心の中の座標軸」。それは経営という仕事だけではなく、生きて行く上で誰もが持っているべき、大切なものなのだと思った。

新版・実践経営問答 こうして会社を強くする (PHPビジネス新書)
作者: 稲盛和夫, 盛和塾事務局
メーカー/出版社: PHP研究所
発売日: 2011/03/19
ジャンル: 和書