『ストーリーとしての競争戦略』


 「おまえに何ができる?偉そうなことを言うな!」著者の楠木建は一ツ橋大の教授なのだが、ビジネスの実務家に戦略論を説く際、こんな言葉が頭をよぎり、時には面と向かって言われることもあるそうだ。「経営学と経営とは違う」「学者の話を聞いてよくなった会社はない」「机上の空論」・・・。実際のビジネスの現場では勘や運や経験、スピードや根性がモノを言うことが少なくない。実際それらが勝敗の鍵となることは多いと思うが、こと「戦略」となると様子は異なる。「優れた戦略の『論理』は確かにある」と著者はいう。理屈で説明のつかない部分が大半を占めているとしてもだ。とても共感を覚える考え方、こういう人好きだ。

 どのような市場で、何を強みにして勝ち残っていくかを考えるのが戦略なのだが、具体的にどのような打ち手を打っていくのかが問題になる。「こうなったら良いな」ではないし「ぜったいこうする!」という気合・根性論でもダメだ。こうすれば当然こうなる。次にこうすると必ずこうなる。論理的に納得のいく形で一つひとつの打ち手を打っていく。そして本書の主題である「ストーリーのある戦略」とは、個々の打ち手が組み合わさって連動し、ダイナミックな流れを生むような戦略のこと。「ビジネスモデル」が静止画であるのに対し、ストーリーのある戦略は動きのある動画にたとえられる。

 世の中には色々な企業がある。半導体メーカー、ラーメン屋さん、エステティックサロン、養鶏業、音楽教室・・・。各企業はそれぞれに強みがあって存続しているのだが、その一方で戦略も打ち手も自然と限定されてくる。閉塞感ただよう現代においてはなおさらだ。しかし、自分の職業である商社の営業の場合、そういった限定が極めて少ない。何処に行っても良い、誰に何を売っても良い。本当に自由な仕事だ。それだからこそ戦略の大切さを痛感している。限られた時間と資本をどこに投下し、最大の収益を得るか。それを考え行動に移すのが商社の営業の仕事。営業マン個々についてもそうだが、部門として、会社としての戦略はなおさら重要だ。

 本書によると優れた戦略ストーリーの必要条件は、思わず人に話したくなるストーリーであること。シッカリした論理に基づき現実味があり、なおかつワクワクするような夢のあるストーリー。そんな戦略を描き誰かに語ってみたいものだ。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
作者: 楠木建
メーカー/出版社: 東洋経済新報社
発売日: 2010/04/23
ジャンル: 和書