天満天神繁昌亭


 この前の日曜のこと、大阪天満宮のすぐ隣にある天満天神繁昌亭に行ってきた。繁昌亭は2006年竣工の上方落語の寄席なのだが、なんと大阪大空襲以降60年間、上方落語の定席は途絶えていたのだそうだ。それを多くの人の寄付と熱意とで復活させたのがこの繁昌亭。落語には全くの素人だが、これは行かねばなるまい。目指したのは午後1時からの昼席だ。

 受付で当日券を買い求めようとするとすでに満席で立ち見になるという。立ち見でも当日券の料金2500円は変らない。立ち見でも構わないと言っても「ホンマにいいんですか?」と2度も念を押された。大阪の人は立ち見と言われると「そんならエエわ」と帰るのが普通だからなのか、それとも「いくらか負けろ」と言いだすからだろうか?。

 まだ新しさの感じられる席数216の小ぶりな客席。天井にずらりと吊り下げられた提灯には設立の際寄付をした方々の名前が書かれている。館内は禁煙、携帯電話の電源OFFと場内での飲食、写真撮影、録音録画はご遠慮下さいとのアナウンスが流れる。写真や録音録画を禁ずるのはまぁ理解できるけれど、飲食もダメとは少し残念だ。おせんべいパリパリは周りの迷惑だけれど、お茶でも飲みながらゆっくり聞きたい気もする。お酒など飲みながら楽しめれば最高なのだけれど、当世風のマナーなのだろう。自分のほか7−8名の立ち見客とともに壁際で開演を待った。

 賑やかなお囃子とともに開演したこの日の舞台、演目は落語が8席と漫談と曲独楽。若手もいればその道何十年のベテランもいる。多彩な顔ぶれによる芸の数々を楽しめるのは寄席ならではだ。林家卯三郎のガマの油売りの噺は酔っ払いの姿がとてもリアルで楽しかったし、レッツゴー三匹の一人、レッツゴー正児のハイテンションっぷりは年齢を感じさせなかった。トリを飾った笑福亭松喬の肩の力が抜けた(ように聞こえる)語りは実に味わい深かった。印象的だったのは立花家千橘のお多福の面の噺。静かな語り口に惹きこまれた。

 前述の通り落語に関しては全くの素人だ。周囲にはたいそう詳しそうな落語マニア的な方も見受けられたが、素人は素人なりに十分楽しめたのは大衆芸能の懐の深さゆえだろう。関西弁で語られる上方落語のソフトな語り口、テンポが速くハイテンションな昨今のお笑いとは一味も二味も違う。演目がすべて終わり、出口へ向かうと出演者の皆さんが見送りに立っていてくれ、和服で来場の女性には大入袋が配られていた。こんなサービスも小さな寄席ならではだ。身近にこんな素敵な寄席があるのは幸せな事。また足を運んでみたいと思う。