講談初体験


 大阪市中央区山本能楽堂で毎月二回開催される『初心者のための上方伝統芸能ナイト』に行ってきた。能楽狂言などの伝統芸能の中から毎回4つ選び、それぞれの美味しい所を選りすぐりで観せてくれる企画だ。この日は落語、講談、狂言そして素浄瑠璃の四本立て。能楽堂というとお堅いイメージなのだが、落語家の司会で進められる楽しい公演だ。

 去年の7月に続いて二度目の上方伝統芸能ナイト。前回は無かった講談を楽しみにしていた。実はこれまで講談なるものを聴いたことがなく、初めての講談体験。この日登場したのは旭堂南海先生。演目は赤穂義士伝から三村次郎左衛門のお話だった。四十七士の中で最も身分の低い三村次郎左衛門は薪割りをして糊口を凌いでいた。薪割りを通じて刀研ぎ師の竹屋喜平次と知り合ったのだが、意気投合し飲み友達になる。杯を交わすうち親交を深めた喜平次に次郎左衛門は「いつか仕官が叶う日のために」と、自らの刀を研いでもらう・・・。

 初めて聴いた講談は、予想していた以上に迫力があってエキサイティング。話の最初に義士の名前を続けざま一気に四十七人まくしたてると、固唾を飲んでいた会場は拍手で包まれた。独特の口調は勢いがあって格好良い。一方、次郎左衛門と喜平次とのやりとりは面白おかしくて、まるで落語のよう。聴衆をぐいぐい引きつける言葉の力、こういうのを話芸というのだろう。この日もらったチラシの解説によると、上方講談は明治から大正にかけて盛況を誇り、大阪市内各地に講談場があったのだそうだ。大阪を舞台にした作品が数多くあり、「難波戦記」では徳川家康が堺で討死、豊臣秀頼真田幸村と薩摩へ落ち延び豊臣家再興を目指すという、大阪方から見たフィクションなのだそうだ。一度聴いてみたいものだ。

 講談以外の落語や狂言、素浄瑠璃も楽しく、恒例の「体験コーナー」では豊竹英大夫師匠の指導で、会場全員で浄瑠璃を語った。「父(とと)様の名は十郎兵衛、母(かか)様は、お弓と申します〜」大きな声を出すのは気持ちの良いものだ。

 実は今回の『初心者のための上方伝統芸能ナイト』は勤め先の春の行事。社員に文化的素養を身につけさせようというトップの涙ぐましい思いで毎年演劇やクラシック音楽伝統芸能などを観に行くのだ。ちなみに去年は宝塚歌劇の『ファントム』だった。今年はぐっと渋く能楽堂、もちろん推したのは自分だ。まだ皆の感想を聞いていないのだが、楽しんでくれたのだろうか。少々心配だったりもする・・・。