『チャイナ・シンドローム』


 1979年公開のアメリカ映画。タイトルの『チャイナ・シンドローム』とは、もしアメリカの原子力発電所で炉心の溶解が起こったら、高温になった核燃料が炉を溶かして流れ出し、地球を貫いて反対側の中国まで達するという意味。この映画が公開された数日後にスリーマイル島原発事故が起き、世界の注目を浴びた。主人公のニュースキャスターをジェーン・フォンダ、正義感あふれるカメラマンをマイケル・ダグラスが演じている。事故を隠そうとする悪徳発電所とそれを暴く正義のマスコミ、といったステレオタイプに終わることなく、そこに発電所で働く職員の目線が加わっているところが物語に深みを与えている。初老の発電所職員ゴデルを渋く演じたのはジャック・レモン『アパートの鍵貸します』『お熱いのがお好き』などのコメディーでの軽妙さとは全く違う、年輪を感じさせるいい味を出していた。

 ご飯を食べて、両手両足を使い行動するのが人間が持って生まれた力ならば、それ以上の力を得るため人間はいろいろと頭を使ってきた。火の使用、牛馬の力、水車や風車、蒸気機関内燃機関ジェットエンジン…、はやぶさ小惑星イトカワまで運んだイオンエンジンとはいったい何もの??そしてこの映画で取り上げられた原子力。気が付けば人類は持って生まれた力をはるかに上回る力を得た。それらのお陰で夜でも明るく、冬でも暖かくなり、移動にかかる時間は100分の1以下にもなった。しかし、獲得した力の使い方を誤った時、一個人では責任のとりようもないエライ事になってしまう。昔の人がうっかり矢を放ったとしても傷つける相手は一人。遺族のため一生尽くそうという気にもなろうが、原子力に関わる人の過ちは何千、何万という人の命を奪い、更には未来の子孫達にまで影響を与える。死んで詫びても何にもならない。そんなおっかないモノ、使うのやめよう!という動きもあるが、今のところ人類はそれを使うという選択をしている。この映画の作られた頃と違い、今では危機管理の観点から何重もの安全対策がなされているだろうからきっと大丈夫。みんなそう信じて暮らしている。自分もその一人だ。

 時おり耳にする言葉に「想定外」というのがある。「想定外の事でしたので・・・」という言い訳に「そんな事、当然想定しておけよ!」と突っ込みたくなることもしばしば。しかし、こと原子力においてはありとあらゆる場合を想定して運用されているのだろうと信じたい。地震津波の発生は当然想定しているだろうが、火山の噴火や隕石の直撃はどうだろう。エチゼンクラゲの大量発生で、原発の冷却水が確保できなくなったことがあったけど、ゴキブリやイナゴ、カメムシの大量発生に対しては万全なのだろうか。インフルエンザの大流行を想定することはできようが、「未知の病原体」を想定し対策するとなると、なかなかゴールが見えない。同様にコンピュータウイルスやテロリストの襲撃は想定しておいてほしいが、ゴジラや宇宙人の襲撃まで想定するとしたら電気代が相当高くなることを覚悟しなければならない。

いずれにせよ「想定外の事でした」という言い訳が許されないところで、経済性とのバランスをとりつつ必要かつ十分な想定をする。そんな酷な仕事をきちんとやり続けることを我々は選択したのだ。そういう事は頭の良い人達にお任せして・・・という逃げ口上は許されない。その人達がちゃんと仕事しているかどうか、見極めなければならないのだから。結構しんどい世界に我々は生きている。