『ミッション』


 18世紀半ばの南米、現在のアルゼンチンとパラグアイとの国境付近のジャングル。そびえ立つ断崖絶壁を登ったその先にグァラニー族の村がある。イエズス会のガブリエル神父(ジェレミー・アイアンズ)は単身絶壁を登り、布教のため単身この村を訪れる。弓矢を構えガブリエルを遠巻きにするインディオ達をよそに、ガブリエルはバロックオーボエを取り出し演奏を始める。命がけで奏でた音色はインディオの心を開かせ、彼は村へと受け入れられた。

 異なる文化と価値観を持つ異民族と打ち解けあい、最後は聖書の教えで未開の民を救済する、キリスト教的感動の物語…だと思ったのだが全く違う展開に正直驚かされた。詳しくは書かないが、ガブリエルは宗教の理想とはかけ離れた、国家や政治といった「大人の事情」に翻弄される。

 当時の地球上で、いくらか進んだ技術と軍事力をもっていたーロッパの国々が、世界地図を塗り分ける陣取り合戦を繰り広げていた時代。布教活動もそのあたりの事情と無関係ではいられないのは当然と言えば当然だ。それまで自分の使命を支えていた論理とは違う論理が強力にはたらき、物事が判断されていく。この映画ほどのスケールではなくても、こういった事態に遭遇することは有り得る。業績を出している事業が会社都合で縮小もしくは撤退することなどはよくある事だし、昨今の「事業仕分け」なども、マクロ的には正しかろうが、ミクロ的にはやるせない思いをしている職員の方も多いのではないか。あと、身近な所では、親の転勤での転校なども子供にとっては文字通り「大人の事情」による横暴と感じられるのだろう。

 それまで自分が積み上げてきたものが大きければ大きい程、人は変ることに抵抗を感じる。仕方がないよと諦める時の心の痛みが増す。幸い今までの人生でこのような局面に遭遇することは無かったが、もしそうなった時、自分はどうするか?新しい論理に納得し身を任せられれば幸せだろう。そうでない場合、この映画のようにあえて困難な道を選ぶか、それとも諦念、あきらめの境地に浸るかのどちらかなのだろう。

ミッション [DVD]

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