自由軒のカレー

 休日出勤した土曜日の夕方、大阪難波自由軒に行ってきた。地下鉄なんば駅で下車し、賑やかな週末のミナミのアーケード街を数分歩くと到着する。ここ自由軒は大阪で最初にできた洋食屋さんらしい。明治43年に創業し、第二次大戦で焼失してしまったが終戦後に再建。創業以来の味を現在に伝えている。

 大きく「自由軒」と染め抜かれたのれんをくぐって扉を開けると昔ながらの洋食屋さん。レトロな雰囲気が目の前に広がった。お客は7割程度の入りで、結構賑わっている。そんな店内を切盛りするオバちゃんは4人いて、大きなテーブルに案内してくれた。さてこの自由軒、洋食屋なのでステーキやトンカツもあるのだが、ここの名物は他とは少し違うカレー。ごはんとカレーが混ぜ合わされて、その上に生卵が乗っかっている。「混ぜカレー」もしくは「名物カレー」といって、明治以来このスタイルなのだ。白いごはんにカレーがかかった普通のカレーもあるのだが、そちらは「別カレー」と呼ばれている。「何にしましょうか?」「混ぜカレーと生ビール!」迷わずオーダーする。

 待つことしばし、自由軒と書かれたお皿に乗せられて混ぜカレーがやってきた。カレーの香りが漂い、生卵の表面がキラリと光る・・・旨そうだ。はやる気持ちを抑えつつ、スプーンで卵をかき混ぜる。テーブルにあるウースターソースをツツーッとかけてもう一度よーくかき混ぜて出来上がり。普段はカレーにソースなど決してかけないのだが、ここのカレーはソースをかけて初めて完成する。一口頬張ると香ばしいカレーの香り、スパイスの刺激とソースの酸味、そして生卵の優しい味わいが口中に広がる。よく混ぜ合わされたごはんとカレーと卵とがシットリとしていて、少し固めのリゾットのような舌触りだ。具材はみじん切りのタマネギと小さく刻まれたお肉。ごはんやカレーとよく混ざり、口の中ではそこはかとないアクセントになっている。2、3度噛んでゴクリと飲み込むとマイルドなのど越しが独特で絶妙だ。二口三口と頬張るうちに思わずムフフフフ・・・と笑みがこぼれる。そして急ぐわけでもないのに何やらスプーンが止まらなくなっていた。ふと我に帰って生ビールをグビグビ・・・。シアワセの一時だ。休日出勤の疲れも吹き飛ぶ。


 自由軒のWebページを見て初めて知ったのだが、電子ジャーも電子レンジも無かった創業当時、お客さんにいつでも熱々のカレーを提供しようと考案されたのがフライパンの上でごはんとカレーを混ぜ合わせてから出すという方法だったのだそうだ。ナルホド、暖かいごはんがいつでも当たり前のように食べられるようになったのは、ほんの最近のこと。現代人が忘れてしまった知恵と心遣いがこの独特の混ぜカレーを生んだのだ。『夫婦善哉』織田作之助が愛したという自由軒のカレー、店内には織田作之助の写真の入った額が飾ってあった。明治以来の大阪の味を守り続ける自由軒のカレー650円也、ごちそうさまでした。


自由軒 難波本店

HOT PEPPER 自由軒 難波本店