『エンチャンテッド・アイランド魔法の島』

 土曜の夕方、大阪難波なんばパークスシネマに足を運んだ。お目当ては『エンチャンテッド・アイランド魔法の島』、ニューヨークのMETことメトロポリタン歌劇場の舞台映像を映画館で上映する「ライブビューイング」だ。この作品を知ったのは先日『ブリューゲルの動く絵』を観にいった九条シネ・ヌーヴォでもらったチラシ。シェイクスピア『夏の夜の夢』 の二組の恋人たちが、同じくシェイクスピアの『テンペスト(嵐)』の魔法の島に漂着するという新作オペラの初演で、それを彩るのがヘンデル、ヴィヴァルディ、ラモーといったバロックの巨匠たちの音楽、指揮はチェンバロ奏者のウィリアム・クリスティー。観にいかずにはいられない。

 絶海の孤島で繰り広げられる、愛と魔法の物語。ストーリーがシェイクスピアの二つの戯曲のミックスならば、音楽も寄せ集めなのだが全く不自然でない。それどころか、「あ、この曲はラモーのオペラで聴いたことがあるぞ」「この旋律って絶対ヴィヴァルディだなぁ」などと一曲一曲を楽しむことができた。この作品のように、複数の作品から寄せ集めて一つのオペラにすることを「パスティーシュ」というのだそうだが、ジェレミー・サムズの台本は見事なパスティーシュに仕上がっていた。舞台のセットはシンプルなのだが、背景にCG映像をミックスするという斬新な手法で魔法の世界を視覚的に盛り上げていた。

 オペラを観たのは実はこれが初めて。歌詞が分らないので高額なチケットを買って観にいく気がしなかったのだが、この「ライブビューイング」は字幕が付いているので洋画を観る要領でごく自然に楽しむことができた。音楽は生に勝るものはない思っていたけれど、オペラの場合はこういった形式で観るのも悪くない。いやむしろ、言葉のわからない自分にはこちらの方が良いと思った。豪華な歌手たちの歌はどれも素晴らしく、中でも妖精アリエル役のダニエル・ドゥ・ニース(ソプラノ)はたまらなくチャーミング。魔女シコラクス役のジョイス・ディドナード(メゾソプラノ)、プロスペロー役のディヴィッド・ダニエルズ(カウンターテナー)の熱演も素晴らしかった。途中15分の休憩をはさんで3時間45分。3,500円のチケットは映画としては高いが、オペラとしては破格の安さ。魔法の世界にどっぷりとつかり、華麗なステージを堪能した。