アルバイトの思い出

 およそ四半世紀前のこと。アルバイトで生計を立てていた時期があった。当時は「フリーター」なんて言葉はまだなかったけれど、二十歳前の自分はそのはしりだった。バイトしてたのは学生街の喫茶店。江戸っ子の店長と東北出身のマスター、あとは学生アルバイトで店を切り盛りする。お客さんのほとんども学生だったから元気が良く明るい店で、まるでサークル活動をしているような感覚。そんな店で朝から夕方まで、週6日働いていた。

 当時時給は600円くらい。一日働いて5,000円程、月に10万ちょっとの収入だったと思うが、これで衣食住の全てをまかなっていた。下宿は3畳間、お金が無くなるとパン屋さんで袋一杯50円のパンの耳が夕食だったりした。一日一食は勤め先で大盛りのカレーを食べさせてもらえるのが嬉しかった。お客さんが多くて「悪いけどもう1時間いい?」と言われるのも嬉しかった。

 基本的には気楽なアルバイトだったのだけれど、誰にも頼らず一人で生きているという自負が当時の自分にはあったと思う。周りの学生さん達と比べてそう考えるのはごく自然なことだった。しかし今感じるのは、日本が豊かな国なのだなぁということ。何の技能も能力も経験さえもない若造が、誰の援助も受けず、それなりに暮らしていけた。これは豊かな国でなければありえない事だ。社会インフラや役所や警察に守られているからこそ、アルバイトくらいで一人生きていけたのだろうと思う。自分の勘違いとそれを気づいた事まで含めて良い勉強をさせてもらった。

 グラスやカップの沢山乗った銀盆の水平を保つのが最初は難しかった。水加減を間違えてご飯をおかゆにしてしまったこともあった。店のみんなで海水浴に行ったけれど曇りだったなぁ。有線放送で何度も聴いた当時のヒット曲は頭に刷り込まれていて、テレビやラジオから渡辺美里My Revolutionが聴こえてくると、あの店のカウンターの前の風景、店長、マスター、バイト仲間の顔が浮かんでくる。