『トヨタの片づけ』


 あなたのデスクまわりは、こんな状態ではありませんか?本書は冒頭で読者に問いかける。「必要な書類を探すのに10秒以上かかる」「1週間以上使っていない文房具がある」「引き出しのいちばん奥にあるモノが何かを即答できない」「デスクの上にありながら、1ヵ月以上触れていない書類がある」・・・・じっくり考えるまでもなく、4つともあてはまることは明白だ。

 著者はOJTソリューションズという会社。2002年にトヨタ自動車リクルートグループによって設立。50人以上の元トヨタの社員がトレーナーとして在籍するコンサルタント会社なのだそうだ。数あまたあるトヨタの手法やノウハウの内、この本は「片づけ」について書かれている。たかが片づけとあなどれない、トヨタの片づけとは「ムダがなくなり、効率が上がり、売上が上がる」ものなのだそうだ。逆に片づけができていないことは、ロスを増やし、業績にマイナスとしてはたらく。先ほどの問いから始まる冒頭の部分は、次の言葉で結ばれる。片づけは、あなたの仕事や職場を変える「ビジネスツール」なのです。

 本書には片づけの意味や意義を説いて、その後で具体的な片づけの方法が示されるのだが、どれも実に明確で分りやすい。トヨタの現場で長年かけて磨き上げられてきた論理であり方法であるからだろう。きちんと筋道が通っている物事を説明するのは難しいことではない。

 こんな本を手にとったのには理由がある。商社の営業マンとして長年やってきたが、効率化という言葉が最近身にしみる。自分は瞬発力より持久力。ハードワークを常としてなんとかやってきたのだけれど、最近はちょっとそれも限界かなぁ・・・などと思ってしまうのだ。残業時の集中力が驚くほど低い。すぐ目が疲れるし、首や肩がバキバキになる。そして気が付けば何か理由をつけてBeer timeに突入しているという状態。困ったものだ。冒頭の4つの問いでは「必要な書類を探すのに10秒以上かかる」というのが最も頭が痛い。時間のロスをしている事をとても感じ、以前から何とかしたいと思っていたのだ。デスク周りや書類をきちんと片付け、効率よく仕事ができ、心おきなくBeer Timeに突入できるようになりたいものだ。

 それにしても、この本のタイトルには考えさせられる。頭に「トヨタの」と付くと、それだけで「何だかスゴそう」と思ってしまうのだ。そう、トヨタという一企業名がブランド的に働くのだ。ここが愛知県であることを差し引いても、日本人のかなりのパーセンテージにとって、この枕ことばはプラスに働くと思う。実際、この出版社から『トヨタの口ぐせ』『トヨタの上司』という本が出版されている。目ざとい出版社はきっと二匹目のドジョウを狙ってくるに違いない。遠くない将来『トヨタの勉強法』が受験生のバイブルになり、『トヨタ購買のお買い物』は主婦の間で大ヒット。若者はこぞって『トヨタ社員の恋愛指南』をむさぼり読み、そしてついには『トヨタ増毛法』や『トヨタ式で血糖値が下がる!』なんて本まで出版される・・・。そんなことは無いだろう。

トヨタの片づけ
作者: OJTソリューションズ
出版社/メーカー: 中経出版
発売日: 2012/11/14
メディア: 単行本