『未来世紀ブラジル』

 モンティ・パイソンテリー・ギリアム監督作品、1985年公開。冒頭、CRTディスプレイの表示で8:49P.M. SOMEWHERE IN THE 20th CENTURYという前置きから始まる。画面はカラフルなダクトのCMへと変わり、そして爆発。国民を高度に管理する政府とテロリストとが争う世界が舞台だ。

 物語の発端は情報局員が天井に止まった虫を新聞紙で叩き落とした事。虫の死骸がタイプライターに落ち、印字された書類のTUTTLEがBUTTLEになったのだ。TがBになっただけなのだが、これで善良な市民アーチボルト・バトル氏は連行され尋問の過程でショック死してしまう。バトル氏誤認逮捕の一部始終を目撃した1つ上の階の住人ジル・レイトンはバトル夫人に代わって情報局に掛け合う。

 主人公のサム・ラウリーは情報省記録局に勤める公務員。今の職場で十分満足しているのだが、彼の母親はサムに野心的に出世を目指してほしいと思っている。そんなサムは情報局に来たジル・レイトンの姿を目にして大いに驚く。毎晩夢の中で出会う美女。ブロンドの髪をなびかせ彼と口付けする彼女にそっくりなのだ。サムの人生は大きく変わっていく・・・。

 管理社会の暗い一面を描く点では『1984』のようなのだが、全編を通して流れるAquarela do Brasil「ブラジルの水彩画」がコミカルなムードをかもし出している。そう、この映画は管理される側の悲惨さを描くと同時に、管理する側の滑稽さ、ばかばかしさをも描いている。冒頭の虫のくだりもそうだし、サム・ラウリーの働く職場(なぜかレトロなコンピューターが活躍する)もそうだ。しかし、ジル・レイトンをたらい回しにする情報局や、融通の利かないセントラル・サービス、銃撃戦が行われているのに黙々と床掃除を続ける掃除夫などを見ていると、滑稽さどころではない。決められたルールに対して思考停止で盲目的に従い、それを完全に実行しようとする、我々日本人を見ているような気がしてくる。まぁ、日本人に限らず、役所というのは大なり小なりそういう部分があるし、そうでなければ回らないところなのだろう。

未来世紀ブラジル [DVD]

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