『プロの残業術。』


 私的残業。この何とも不思議なコトバが本書のキーワードだ。著者によると、自ら楽しんでする「自分のための残業」が「私的残業」の定義だ。同僚達がみな帰り、外部からの電話もかかってこない。残業タイムは自分のペースで仕事ができる、ゴールデンタイムなのだ。この時間をやらされ仕事ではない、真に自分の成長につながる仕事に使うべきと著者は訴える。

 Amazon「残業」で検索したら115冊。当然本書も含まれるが、そのほとんどが残業をしないためのノウハウ本。「ノー残業」推進の世相を反映しているのだろうし、効率化の名の下、「ノー残業」と「負担増」との間であえぐビジネスマン達からのニーズもあるのだろう。これらとは正反対の本書は「ノー残業信者」に真っ向から反対し、残業したくてもできない境遇のビジネスマンを哀れむ。

 わが身を振り返ると、20代の頃からよく残業してきた。人間に朝派と夜派があるのなら間違いなく夜派だ。自分の勤めている職場では、夜8時を過ぎると人は殆どいなくなる。電話などで作業が中断されることがないので、書類や表の作成、台帳記入などの事務仕事がものすごくはかどる。自分が打つキーボードとエアコンの音だけの静かな環境。考え事をするのにも、書類の文章を推敲するのにも最適だ。やらなくても別に構わないのだけれど、本当はやった方がよい・・・そんなプラスアルファの仕事をやる余裕も残業タイムにならある。

 著者の主張する通り、自分が残業によってプロとして成長できたかどうかは甚だ自信が無い。自分の能力を上回る仕事に対し、逃げずに立ち向かうための唯一の手段だったような気がする。しかし本書で語られていることには深く共感できる。やる気のある30代のビジネスマンにぜひ読んで欲しい一冊だ。

プロの残業術。 一流のビジネスマンは、時間外にいったい何をしているのか?
作者: 長野慶太
メーカー/出版社: 草思社
ジャンル: 和書