『佐藤可士和の超整理術』


 アートディレクターの佐藤可士和、ホンダのステップワゴンやユニクロ、歌手のSMAPなど、数多くの商品・企業のブランディングや広告に携わってきた。そんな彼の書いた整理術の本。シンプルな表紙に惹かれて手に取った。ビジネス書っぽくない雰囲気もイイ感じなので、読んでみることにした。

 整理術に対するこの本のスタンスは明確だ。問題解決のための手段の一つとして整理術を位置づけている。そしてそれを「空間の整理術」「情報の整理術」「思考の整理術」と3段階に分けて説いている。この整理術を貫いているのが「状況把握」→それに対する適切な「視点の導入」→そこから問題解決のための「課題設定」、というプロセスだ。これはアートディレクションの作業と重なり、佐藤可士和が仕事の中で作り上げた方法でもある。この本では彼がこれまで手がけてきた作品の製作過程を例に引きながら、3段階の整理術を教えてくれる。

 自分は身の回りを片付けることがキライではない。あるべきモノがあるべきトコロに収まっていることを気持ち良く感じるし、そうするために少しの時間と手間をかけることを惜しまない。自宅は単身赴任のやもめ暮らしにしては片付いている方だと思うし、事務所のデスクもまぁまぁ綺麗にしている。それでも少し気を緩めているとカオス状態になるのも事実。「空間の整理術」の中にあった「おそらく、仕事を優先するあまり、机周りの整理は後回しになってしまうのでしょう。でも、それでは順番が逆なのです」という言葉には痛いところを突かれたと思った。

 佐藤可士和という人は多摩美大でグラフィックデザインを学び、企業のロゴのデザインもするのだけれど、この本の文章はものすごく丁寧で論理的。デザイナーやアーティストのイメージではなかった。なるほど、アートディレクターという彼の仕事は常にクライアントと向き合い、相手のニーズを引き出して形にするという作業。彼はあくまでもディレクター。デザインは手段であって目的ではないのだ。デスク周りや室内の整理整頓に役立つHACK集ではなく、整理する道筋とその先にある効果を教えてくれる一冊。面白くためになった。

佐藤可士和の超整理術 (日経ビジネス人文庫)
作者: 佐藤可士和
出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
発売日: 2011/04/09
メディア: 文庫