タブラトゥーラ


 大阪府堺市室町時代から安土桃山時代にかけて南蛮貿易の港町として大いに栄えていた。南蛮船には音楽家も同乗していて、信長や秀吉もルネサンス期ヨーロッパの音楽を耳にしたという。そんな当時を偲び、堺市では「堺古楽コンサート」が開催されている。今回は第3回目で出演はリュート奏者つのだたかし率いるタブラトゥーラ、行かねばなるまい。

 タブラトゥーラは、古楽器を自由自在に操り中世ヨーロッパの音楽やオリジナル曲を演奏するバンド。メンバーはつのだたかし、田崎瑞博、江崎浩司、近藤郁夫、山崎まさしの5人。それぞれが各方面での一流プレーヤーだ。超絶技巧でリコーダーとショーム(昔のオーボエ)を吹き鳴らす江崎浩司と、ストレートヘアを振り乱しながらフィドル(中世の弦楽器)を奏でる田崎瑞博をツートップにして、近藤郁夫のエジプシャン・タブラ(エジプトの太鼓)と山崎まさしのビウエラ(ギターのような古楽器)がバックを固める。そしてその間をつのだたかしリュートやウード(アラブ圏のリュート)がつなぐというのが彼らの基本スタイルだ。中世の音楽は単旋律しか残っていない事も多い。それをステージで演奏するにはアレンジの力が試される。当時の様式に則って伴奏を作り、曲を組み立てる。彼らの場合、そこにエンターテイメント性が加わる。ソロパートを回し、アドリブを織り込んだりもする。次は何が飛び出すか?ワクワク楽しいステージなのだ。

 実はこの日のプログラム、第一部は「堺のまつり」と題した講演会で、堺市博物館の学芸員さんのお話を30分聞いた。その後、第二部がタブラトゥーラのコンサートだったのだが、第一部メインのお客さんも多かったようで、客席は少し固い雰囲気だった。しかし、古楽器のどこか懐かしい音色と、つのだ氏の楽しいおしゃべりにそれも徐々にほぐれ、アンコールでは立ち上がって手拍子するお客さんが多数。つのだ氏に誘われ、舞台に上がって踊ったお客さんも20人位はいたと思う。「ブラボー!」の声が飛び交いエンディングとなった。

 27年前の1984年に結成したタブラトゥーラ、最初に彼らのステージを見たのは結成直後の1985年。渋谷かどこかのライブハウスだったかと思う。メンバーのうち二人が入れ替わったけれど、実力のある一流のプレーヤーが大真面目に遊ぶ、そんな姿勢は変わっていない。今回のプログラムは全て彼らのオリジナル曲、中世の曲が無かったのが少し残念だったのだが、アンコールでは16世紀スペインの作曲家、ディエゴ・オルティスのレセルカーダを演奏してくれた。また、終演後ロビーに出るとメンバー5人が再び登場し、14世紀イタリアのサルタレッロと先ほどのレセルカーダを演奏してくれた。こういうサービス精神も変わっていないなと大喜びで帰路に着いた。