『花窗玻璃〜シャガールの黙示』


 フランス北部の都市ランス。この街には13世紀に作られたという、大聖堂がある。歴代フランス王の戴冠式が行われた歴史的な大聖堂の祭壇の真後ろにあるのが20世紀の巨匠、M.シャガールによるステンドグラスだ。ガイドブックには必ず紹介され、観光客が後を絶たない大人気のステンドグラスだ。このステンドグラスを見た後、続けて二人の人間が不審な死を遂げている。警察は事件性なしとして片付けたが、実はそうではなかった。さまざまな巡り合わせの結果、その謎を解くのがヨーロッパ遊学中の神泉寺瞬一郎18歳。ちなみにタイトルの花窗玻璃(はなまどはり)とはステンドグラスのこと。

昔からシャガールが好きで、我家の居間には額に入れたポスターが飾ってある。しかし、「シャガールが好き」などと、人前で口に出しては言いにくい。「愛の画家」というキャッチフレーズが良くない。また、よく登場する花束、新郎新婦などのモチーフにしてもそうだ。ロマンチックで夢のような雰囲気はいかにも女性うけしそうで、男としては照れくさいのだ。じゃぁどうしてシャガールが好きなのかというと、それは人間の幸せな気持ちを表現しているから。その作品を観る者をも幸せにするような、そんな力をあの青と赤から感じるからだ。逆に悲しみの絵、苦悩を表現した作品には魅力を感じない。「この作品には作者のやりきれない悲しみが表現されています」などという解説付の作品はまっぴら御免。悲しみには同情するが、一人で悲しんでいてくれ。そんなもの持ち出してきて人様に見せて、悲しみや苦しみが感染したらどうしてくれるんだ!と思ってしまう。芸術を神との対話として考える風習があると、こういう考えにはならないのだろうが、生憎多神教で宗教色の薄い日本人には理解できない。ちなみに同様の理由から、音楽は基本的に長調の曲が好き、短調なら渋くてカッコイイ曲に限る。

 大きく話がそれてしまった。この小説の試みとして、明治時代の文豪よろしく、カタカナ表記をせずに漢字で外国の事物を表記している。ナゼそんな事をするかは、作中で神泉寺瞬一郎が語っている。最初は読みにくかったけれど、慣れるとなかなか味わい深いものだ。

花窗玻璃 シャガールの黙示 (講談社ノベルス)
作者: 深水黎一郎
メーカー/出版社: 講談社
発売日: 2009/09/08
ジャンル: 和書