『俺たちに明日はない』

 「ちょいと、それママの車よ!」車を盗もうとするクライド(ウォーレン・ビーティー)に2階の窓からボニー(フェイ・ダナウェイ)が声をかけるところからこの映画は始まる。甘いマスクのクライドは強盗をして刑務所にいたと語る、しかしボニーはそれを嘘だと信用しない。「ここで待ってな」と言い残すとクライドは銃を手に通りの向こうの雑貨店に入っていき、大金を手に出てくる。唖然としながらもクライドに惹かれるボニーはそのまま彼と行動を共にする。少し頭の弱いC.W.モス、クライドの兄バックとその妻ブランチを加えた5人組は銀行強盗を繰り返し、警察から追われる身となる。5人の逃避行はどこまで続くのか・・・。

 1930年代、恐慌下のアメリカに実在した男女の強盗、ボニーとクライドをモデルにした映画。クライドを演じたウォーレン・ビーティーの笑顔がとても可愛らしく好青年そのもの。ギャングぽさが微塵も無い。他のメンバーもおよそ悪者らしからぬキャラクターだ。そして、アメリカ南西部の田舎道をクラシックカーでひた走るシーンでは、BGMを奏でるバンジョーの音色がコミカルな印象をさえ与える(この雰囲気、ルパン三世に少し似ている)。そして注目すべきはラストシーン。この二年後に公開された『明日に向かって撃て』と並び称されるラストシーンは確かに印象的だった。

 この映画が公開された1967年、アメリカはベトナムで戦っていた。原題はBonnie and Clydeだが、「俺たちに明日はない」というタイトルも刹那的に生きる強盗稼業がよく現れている。誰しもいつか必ず死ぬが、明日はきっとあると確信して生きている。でもそれは誤解。楽しげな逃避行も必ず終わりが来る。別に銀行強盗をしなくても、戦争に行かなくてもその点に関しては同じはずなのだけれど、そんな事気づかぬふりをして誰もが生きている。それなら、「俺たちに明日はない」と感じて生きている人生とはどんなものだろう。明日があると信じて生きるのとどのくらい違うのだろうか・・・。そんな事が気になった。楽しめたけれど、少し重い。ボニーを演じたフェイ・ダナウェイの美しさが印象に残る一本。

俺たちに明日はない [DVD]

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