仰げば尊し

 卒業の思い出には「仰げば尊し」のメロディーがついてくる。この歌を聴くと卒業式を思い出すし、卒業式を思い出すとこの歌が聴こえてくる。「仰げば尊しわが師の恩、教えの庭にもはや幾年・・・・」明治時代に作られたというこの歌、元はスコットランド民謡だそうだ。懐かしく郷愁を誘う穏やかなメロディーラインが、スローテンポの6拍子とよく似合ってる。3番の後半「今こそ別れめ・・・」のフェルマータで涙がポロリとこぼれ、最後の「いざさらば」は声にならない。

 この歌の歌詞を問題視して、卒業式で歌うべきでない、強制すべきでないとする考えがあるそうだ。なるほど、この歌を歌わせているのが先生ご本人なのだから、「声を合わせて私たちに対する感謝を歌いなさーぃ」という、チョットみっともない図式が見て取れるかもしれない。学校へ無理やり来させられてると思っているならなおさらだろう。自分の卒業式を思い出すと、特に先生に対して尊敬の念があったわけではなかったが、この歌を歌うことで「そういやぁ世話になったなぁ・・・」という気持ちがわいてきた。練習の時は「ケッ!かったるい」ってな感じだったヤツも、本番では神妙に歌っていたような記憶がある。仰げば尊し反対派からすると、まんまと引っかかった馬鹿者達ということなのだろうか。

 当人から強制されている、と思うから腹が立つのだろう。もっと上、文部科学省とか、国とかのレベルから「子供たちよ、先生に感謝しなさい」と言われたのならどうだろう。それはそれで強制と感じて嫌な気になるのかもしれないが、受けた恩義を忘れず、感謝の心を育てることも教育の一つなら、国がそうさせることはアリだと思う。少なくとも「教師だってビジネスとしてやっているのだから、感謝など不要だ」という考えよりは良いと思う。恩を大切にすることを教える国と、先生もサラリーマンなんだからねーと教える国、国という表現が不穏当なら、地域でも民族でも共同体でも良い。どちらに住みたいか、どちらが住みよいか、そして最後の最後、どちらが強いだろうか。

 明日は娘の卒業式。幼い頃からピアノを習っていた娘は「仰げば尊し」の伴奏をするようだ。残念ながら出席できない事がとても悔やまれるが、先生への感謝の気持ちを込めて弾いておいでと言いたい。そして、彼女にとってこの歌が、忘れられない思い出の一曲になってくれることを心から祈る。