『K−20 怪人二十面相・伝』


 2008年暮れに公開された映画。遠藤平吉(金城武)はサーカスの人気軽業師。眼にもとまらぬ身のこなしで拍手喝采を浴びる。平吉はある日、謎の男(鹿賀丈史)の依頼で名探偵明智小五郎仲村トオル)と財閥令嬢の羽柴葉子(松たか子)との結納の様子を盗撮することなる。ビル最上階の天窓越し、平吉が小型カメラのシャッターを切ったその瞬間に大爆発が起こり、会場内は大混乱。天窓から落ちた平吉は怪人二十面相として逮捕されてしまう。二十面相が結納式の席から絵画を盗むと犯行予告をしていたのだ。「オレは二十面相じゃぁない」無実を訴える平吉を救ったのは、サーカスのカラクリ師の源治(國村隼)と仲間達。彼らは盗賊集団だったのだ。平吉は源治の下で修行を積み、怪人二十面相と対決することになる・・・。

 大ヒットではなかったけれど、なかなか楽しめる映画だ。金城武のスピード感あるロープアクションはスパイダーマンのようで格好良かったし、松たか子演じる華族のお嬢様も悪くない。源治の妻の女詐欺師役の高島礼子もいい味出していた。しかし、何といっても一番なのは世界観。この映画の世界は冒頭のナレーションで紹介される。「臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部12月8日午前6時発表。帝国陸海軍は本8日未明、西太平洋において、アメリカ・イギリス軍との平和条約の締結に合意せり。これにより第二次世界大戦は回避されました」第二次大戦の無かった日本の1949年が舞台なのだ。

ところで、もし本当に戦争を回避していたら日本はどんな国になっていたのだろう。国の制度は戦前のままなので、国家元首がいて、軍隊がある。徴兵制は当然あり、我々男性は皆軍隊生活で鍛えられる。広島、長崎への原爆投下は無く、東京や各地の都市も空襲を受けなかったので、戦後の日本人が物凄いエネルギーを費やして成し遂げた「復興」をする必要がない。その後の高度経済成長時代、諸外国と比べ圧倒的なアドバンテージとなったのか、それともスクラップ&ビルドの機会が無く、高度経済成長できずに終わったのか。東西冷戦下ではアメリカの核の傘に入るわけにもいかず、ひょっとしたら自国で核兵器の開発に乗り出したのかもしれない。一方、戦前は女性に選挙権は無かった。男女平等の世の中になるにはもうしばらくかかったことだろう。世のお父さんたちの立場ももう少し強いかも・・・。いやはや、歴史の「もしも」はいろいろな妄想を生む。

 さてこの映画には意外な結末が用意されている。「おいおい、そういう事かよー」ポプラ社のハードカバーを読みふけった世代にとって承服しかねるが、まぁ江戸川乱歩ではなく、北村想なのだからこれはこれ。シリーズ化されたら、それこそこれはこれで面白いかもしれない。

K-20 怪人二十面相・伝 豪華版 [DVD]

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