『スターバト・マーテル』3


 タイトルの邦訳は『悲しみの聖母』。キリストの最期に直面した聖母マリアの悲しみを歌った詩は13世紀に書かれたもの。たくさんの作曲家がこの詩に曲をつけいるが、今回聴いたのはアントニオ・ヴィヴァルディのスターバト・マーテル。歌はマリーニコル・ルミュー(コントラルト)、演奏はジャン=クリストフ・スピノージ指揮のアンサンブル・マテウス

ヴィヴァルディのスターバト・マーテルは全部で9曲からなる。元々スターバト・マーテルは20節の詩なのだが、ヴィヴァルディはその内前半10節のみに曲をつけた。10節で9曲なのは、3-4節と7-8節がそれぞれ2節で1曲になっていて、他は1節=1曲。これで合計計8曲。それに終曲のAmenを加えて9曲になる。ちなみに1〜3曲と4〜6曲は旋律が同じ。つまり繰り返しになっているから、9曲と言っても実際は6曲ということになる(手抜き?)。

 ヴィヴァルディというと、陽気なイタリア人!元気があって良いのだけど騒々しくて少々バカっぽい(失礼!)というのが正直な印象、偏見と言ってもよいだろう。それだけに第1曲目の始まりは印象的。マリアの鼓動のように通奏低音が八分音符を刻み続け、弦楽が静かに前奏を奏でる。Stabat mater dolorosa・・・イエスが架けられた十字架の傍らに立つ聖母マリアの悲しみを切々と歌う、物悲しくも美しい旋律に引き込まれた。ヴィヴァルディの宗教曲を聴いたのは実は初めて。おいおい、やる時はやるじゃんヴィヴァルディー。

今までに聴いたG.B.ペルゴレージL.ボッケリーニスターバト・マーテルには長調の曲も含まれていたが、こちらヴィヴァルディは全部短調。まぁ単純な話、悲しい曲なので短調の方がしっくりくるのだが、ペルゴーレージの第4曲やボッケリーニの第5曲はとても美しい長調の曲で、実はたいそう気に入っていた。ラテン語の歌詞が分かったら違和感を感じるかもしれないけれど、なるほど、悲しい詩に明るい曲というも良いものだなぁと思った。その意味でヴィヴァルディにも1曲くらい長調の曲を入れておいて欲しかったのだが、ヴィヴァルディの場合超陽気になってしまうだろうから自粛したのだろう(偏見)。

Vivaldi: Nisi Dominus . Stabat Mater
アーティスト: Antonio Vivaldi, Jean-Christophe Spinosi, Philippe Jaroussky, Matheus Ensemble
出版社/メーカー: Naive
発売日: 2008/03/31
メディア: CD