『恋の骨折り損』


恋の骨折り損ウィリアム・シェイクスピア
 このお話はナヴァールの王様と3人の側近が誓いを立てるところから始まる。その誓いとは学問の道を極めるため、3年間世俗の欲望を捨てるというもの。ご立派な心がけだが、この誓い、立てたはなから綻びを見せる。世俗の欲望の一つに「女性」が含まれ、「女たるものはわが宮廷一マイル以内に近づくべからず」というおふれを出したのだが、フランスの王女が父王の代理でナヴァール王に会いにやってくるのだ。王様曰く「すっかり忘れていた」(笑)。困った王様は宮廷の外で王女と会談を持つのだが、何と何と、ナヴァール王と3人の側近はフランス王女と3人のお供の女官にそれぞれ一目惚れしてしまったのだからさぁ大変…。

 4人の男達がメロメロなのは『ヴェローナの二紳士』のヴァレンタインとプローテュースや『お気に召すまま』のオーランドーと同じなのだけれど、この4人はつまらぬ誓いを立てたあげく揃いも揃ってそれを破っていることをお相手の女性達にばれてしまっているのだから分が悪い。もう、読んでいて気の毒になる。真剣になればなるほど女性達にからかわれ、言葉巧みに弄ばれる。解説によるとこの戯曲には下敷きとなっている事実があるそうだ。1578年にナヴァール王アンリがフランス王女マルグリット・ド・ヴァロアと会見したのがそれだが、実際の会見はこの戯曲とは似ても似つかぬものであったそうだ。

 それにしてもこの王様、学問を大切にすることは間違っていないのだけれど、世俗の欲望の一切を3年間捨て去るというのはあまりに極端でナンセンスだ。お芝居の中のことと言えばそれまでだが、「方向性は全く正しいのだけれども、具体策が間違っている」と言い換えると何だか身近にも事例が二つや三つ有りそうな気がしてくる。会社や部門の方針ならまだしも、一国の与党のマニュフェストが「つまらないこと言っちゃったね・・・」なんてことにはなって欲しくないなぁとつくづく思った。

恋の骨折り損 (白水Uブックス (9))
作者: ウィリアム・シェイクスピア, 小田島雄志
出版社/メーカー: 白水社
発売日: 1983/01
メディア: 新書