『ヘンリー六世 第三部』


『ヘンリー六世 第三部』ウィリアム・シェイクスピア
 時は15世紀、イングランドを二分する薔薇戦争が起こり、この三部作のタイトルである王ヘンリー六世がこの世を去るところまでのおよそ16年を描くシェイクスピア初期の歴史劇。時の王ヘンリー六世のランカスター家の紋章は赤薔薇、正当な王位はこちらに有りと、ヘンリー六世に反旗を翻すヨーク家は白い薔薇を紋章とするところからこの戦は薔薇戦争と呼ばれる。

 16年の歴史のエッセンスを五幕の戯曲に集約したのだから仕方が無いが、まぁ忙しいお話だ。次から次へと戦いが起こり、どんどん人が死んでいく。それぞれの戦いの中にきっとドラマが有ったのだろうが、シェイクスピアはより大きな歴史の流れを描きたかったのだろう、テキストで読むにはあまりに目まぐるしいというのが正直な感想だ。

 この第三部だけに限れば、時の王が元家臣に殺されるという、いわば下克上の物語だ。本能寺でいえばヘンリー六世は織田信長だ。しかし悲しいかな、シェイクスピアはヘンリー六世に舞を舞わせることも「人間五十年・・・」と吟じさせることもさせてくれない。かといって光秀をヒーローにし、めでたしめでたしとするわけでもない。解説に書かれている一つの見解では、シェイクスピアはこの『ヘンリー6世 第三部』に続く『リチャード三世』までを含めた四部作で揺れ動くイングランド国家を描いたのだという。ナルホド『リチャード三世』を読むのが楽しみになってきた。

 それにしても劇場に来たお客さんはこの第三部だけを見て帰るわけだが、いったいどういう気持ちで帰路につくのだろうか?というか、シェイクスピアはお客さんをどういう気持にさせたかったのか?「勧善懲悪正義は勝つ!」でもなければ、「悲劇のヒーローの魂よ永遠に!」でもない。ましてや「愛は全てに勝る」でもない、この物語の中の男女の愛はみごとにドロドロだ。誰か詳しい方がいたら、お教え願いたい。

ヘンリー六世 第三部 (白水Uブックス (3))
作者: ウィリアム・シェイクスピア
メーカー/出版社: 白水社
ジャンル: 和書