『バージニア・ウルフなんかこわくない』


 まるで言葉の格闘技(外乱闘有り)。全編を通して激しい舌戦が繰り広げられる会話劇。40年以上前、1966年のモノクロ作品だ。歴史学助教授ジョージ(リチャード・バートン)とその妻マーサ(エリザベス・テイラー)がパーティーから帰宅するところからこの映画は始まる。したたか酔っ払った中年夫婦は口げんかを始める。それはいつもの事のようで、出世の遅いジョージに対し不満を持つマーサの言葉には容赦がない。マーサが学長の娘であるという事もジョージにとっては辛いところなのだ。この夜、二人のもとに来客がある。パーティーの席上でマーサは新任の生物学教授ニックとその妻ハニーを招いたのだった。マーサとジョージの辛辣なやり取りに最初は戸惑っていたニック夫妻も、いつしかその渦に巻き込まれていく。真夜中にはじまった、二組の夫婦によるトークバトル、夜が明ける頃4人はどうなっていたのか・・・・。

 まぁ何ともすごい映画だ。事件らしい事件は何も起こっていない。誰も死なないし、怪我もしない(せいぜい器物破損どまり)。しかし、言葉だけではあっても、でここまで激しいバトルが繰り広げられると、まるでアクション映画の戦闘シーンのように目が離せなくなるから不思議だ。このあたり、役者の力量に負うところも大きいのだろう。

 一風変わったタイトルは作中に出てくる替え歌のこと。「Who's Afraid of the Big Bad Wolf?=狼なんか怖くない」という曲を「Who’s Afraid of Virginia Woolf?=バージニア・ウルフなんか怖くない」と替えて歌い、マーサは下品に大笑いする。別のシーンで同じ歌を歌いながらジョージとハニーが手をつないでぐるぐる踊る。ヴァージニア・ウルフというのはイギリスの女流作家の名前(Virginia Woolf、1882−1941)で、綴りは”o”が1つ多い。単なる語呂合わせなのか、それともフェミニズムの立場をとっていた彼女に対し、フェミニズムなんてくそくらえ!と言いたくもなろう、ジョージの気持ちを代弁しているのか。

 この映画、”Fuck”という当時の放送禁止用語を初めて使ったことでも有名らしく、18歳未満は観られなかったらしい。完璧な美貌を誇ったエリザベス・テイラーがよくこんな役を受けたと感心するが、1966年のアカデミー賞で主演女優賞を受賞。当時実際に夫婦だったリチャード・バートンとプロ同士のぶつかり合いをしたのだから凄みがあるはずだ。


バージニア・ウルフなんかこわくない [DVD]

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