『大阪学』


 大阪生まれの作家であり帝塚山大学元学長、大谷晃一の『大阪学』を読んだ。大阪で暮らすのならぜひ読んでおいた方が良いと取引先の方が進めてくれた。大阪単身赴任の先輩だ。

 『大阪学』とはその名の通り大阪についての学問で、帝塚山大学で88年から6年間、著者の大谷晃一によって行われた正式な講座。序章によると、大学の文科系の学問があまりに縦割りで細分化・専門化しすぎた結果、社会の役に立たないものになってしまっている。そこで「大阪」という横線で割ってみたのが「大阪学」なのだそうだ。当時としては先例のないことだったらしく、実に広く無数の学問が必要となり、形をつくるのが難しかったという。そりゃそうだろう。

 この講座の内容を元にした本書には、全部で12の章がある。「お笑い」「きつねうどん」と、ごく身近なテーマの章もあれば、「不法駐車」「スーパー」など現代大阪を論じる章もある。「古代ベイエリア」「都市の誕生」では大阪が町として発展してきた過程と背景を追い、「中世の近代人」では楠正成、「大阪人写実」では井原西鶴上田秋成を論じている。史学・文学・社会学…。確かにに幅広い学問が総動員されている。大学の講座として継続していくのはさぞかし大変だったろうとお察しするが、本として読む分には気楽に楽しめる。

 大阪という土地について語ることは、大阪人について語ることになる。大阪人の特徴は、権威に媚びず、名より実をとる。現実を直視し、先を読む才覚がある。建前より本音をぶつけ合うけれど、相手に対する「気ぃ遣い」は忘れない。一般的に言われていることだし、実際大阪に暮らしていると日々体感するものでもある。そんな大阪人気質についてあれこれ書かれているのも面白い。古くは仁徳天皇の時代、人柱になれとの神のお告げに反駁し、見事助かった大阪人の話が日本書紀に載っているのだそうだ。大阪人気質は一朝一夕にできあがったものではない。年期と筋金が入った伝統なのだ。

 昔、「好きやねん」というインスタントラーメンが発売され、TVで盛んに宣伝されていたことがあった。いかにも大阪弁らしいネーミングだなぁと思っていたのだけれど、あれはお笑いタレントによって誇張された大阪弁であって、実際は少し違うらしい。都会人である大阪人は、このコトバにいくらかの恥じらいを込める。それが小さな「っ」になって、「好っきゃねン」とつぶやくのだそうだ。驚いた。そして何となくわかる気もした。大阪弁について書かれた「好っきゃねん」という章は面白かった。


 タイトルに「学」とあるけれど、内容は全く堅苦しくなかった。「実証と自由と」という章に書いてあるのだが、学問を堅苦しくとらえず、身分の上下を超えて広く門戸を開くというのが江戸時代から続く大阪学問の伝統なのだそうだ。なるほど、表紙がいしいひさいち四コマ漫画というのも頷ける。

大阪学
作者: 大谷晃一
メーカー/出版社: 経営書院
発売日: 1994/01
ジャンル: 和書