『三匹のおっさん』


 有川浩の『三匹のおっさん』を読んだ。彼女の作品は昨年秋に『阪急電車』を読んで以来。タイトルに惹かれて思わず…のタイトル買いだ。三匹のおっさんとは、定年後系列のアミューズメントパークに嘱託勤務となった剣道の達人キヨ、居酒屋の元店主で柔道家のシゲ、そして機械いじりが高じて脱サラし、小さな町工場を一人切り盛りするノリの三人。武闘派二人と頭脳派一人、子供の頃「三匹の悪ガキ」と呼ばれた三人が自警団を結成し、町内に起きるトラブルに立ち向かう。高校生の二人組、キヨの孫祐希とノリの娘の早苗も加わって、全部で6つの事件を解決する。痛快!

 勧善懲悪正義の味方、おっさんパワー炸裂の活劇。実際にはあり得ないようなお話なのだけれど、それぞれの事件は妙に現実味がある。恐喝、痴漢、詐欺に動物虐待…、今の日本、どこの町でも一度や二度は起きているような事件だ。正直、ニュースになっても驚かないし、翌日には忘れてしまう。この文章を書いていて、知らぬ間に慣らされてしまっている自分に気がついた。いつの時代でも悪い事をする奴はいるのだろうけど、それを普通の事と思ってしまうのは良くないことだ。いちいち心を動かしていたらもたないので、他人事として処理する防衛本能が働いているのかもしれないが…。しばし反省し頭をたれる。

 三匹のキャラクターがいかにもいかにもで、それぞれの見せ場もちゃんと用意してあって楽しめる。祐希と早苗の存在はストーリーに厚みをもたせると同時に、若い読者への橋渡しにもなっているのだろう。祐希と早苗よりはずっと三匹に近い世代の自分としては、双方に憧れるような気持ちで読ませてもらった。自分は還暦まであと十数年。高校時代には戻れないけれど、正義のおっさんにはなれなくもない。しかし武道の心得はないし、機械いじりの腕もない。仕方が無い、彼らの心意気だけでも見習うとするか。悪漢十数名を向こうに回してのノリのセリフ「俺たちのことはジジイと呼ぶな。おっさんと呼べ」何のこっちゃ・・・でもこのオトコゴコロ、分からなくも無いな。

三匹のおっさん
作者: 有川浩
メーカー/出版社: 文藝春秋
発売日: 2009/03/13
ジャンル: 和書