『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』


 ディズニーとは開園から四半世紀を経ても人気の衰えない、東京ディズニーランドのこと。著者の福島文二郎は東京ディズニーランドがオープンの年に入社した正社員の第一期生、今は社員研修プランニングなどを行う会社を経営している。

 東京ディズニーランドで働く人達は「キャスト」と呼ばれる。様々なアトラクションやショー、ショップや園内清掃に携わるキャストのほとんどがアルバイトで、その数は1万8000人にもおよぶという。アルバイトなので入れ替わりも激しく、毎年9000人程は辞めていくというから、質の高いサービスを提供し続けるには教育が何より大切なのだろう。キャスト達の明るい笑顔と嫌味のないハイテンションを育成する方法とは何なのか?興味深く読ませてもらった。

 ディズニーランドにはさまざまな研修やトレーニングが用意されている。カリフォルニアにディズニーランドがオープンした1955年以来、練り上げられ、精査され続けててきた結果だという。中でも特徴的なのは、キャスト同士が教えあうシステム。後輩の指導に適任と思われたキャストが選ばれ、特別な研修プログラムを受けた後、トレーナーとして後輩のキャストを育成する。アルバイトがアルバイトを教えるわけだ。本書でもその実例がいくつか紹介されている。しかし、このような仕組みが機能するのは「すべてのゲスト(お客さん)にハピネスを提供する」というミッションがキャストの一人ひとりに浸透して、伝わっているからだろう。それを伝えることが教育の第一歩だ。

 子供たちが小さかったころ、東京ディズニーランドには何度も遊びにいった。いつも夜中に出発し、開園から閉園まで丸一日、子供と一緒になって、いや子供以上に楽しんだ。真夏に訪れた時、照りつける太陽の下で当時保育園児だった娘がのぼせて鼻血を出した。幸い近くに医務室を見つけ、手当てをしてもらうことができた。しばらく休ませてもらうと出血もおさまり、礼を言って医務室を出ようとすると、「また鼻血が出るといけませんから」と小袋を渡された。中には脱脂綿とガーゼで作った、小さなテルテル坊主のようなものが数個。子供の小指の先ほどの大きさだ。熱さで鼻血を出す子供が多いから、あらかじめ手作りで用意していたのだろう。小さな気遣いがありがたく、嬉しかった。この本の中で「ホスピタリティー・マインド」という言葉が出てきた時、あの時のあれもそうだったんだと思い出した。

 ただのアルバイトを「夢の国」を演出するキャストに育成する・・・。考えてみれば大変なことだ。企業側には並々ならぬ努力が必要だろうし、アルバイト側にも恐らくギャラ以上の負荷がかかる。真剣で根気強い教育への取り組みが東京ディズニーランドの人気を支えてきたのだ。キャストの質の低下は「夢の国」の崩壊につながる。これはおそらくどんな企業にも当てはまることだ。

9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方
作者: 福島文二郎
メーカー/出版社: 中経出版
発売日: 2010/11/25
ジャンル: 和書