『誰も教えてくれない 男の礼儀作法』


 日本人なら一度は耳にしたことのある「小笠原流」というコトバ。何だかよくわからないけれど、昔から伝わる作法みたいなモノ、どちらかというと敬遠したくなるけれど、本当はきっと大切なんだろうな・・・などと思う人は多いのではなかろうか。礼儀作法というと女性のたしなみ、という印象があるが、小笠原流はそもそも武士のための礼法なのだそうだ。室町時代から700年ほどの歴史を持つ小笠原流の、門外不出とされていた古文書に記された男の礼儀作法を、広く一般に伝える一冊。非常に興味深く読ませてもらった。

 本書ではまず小笠原流古文書の一文を引用し、その後に現代人にも解るようにその意味を解説し、続いてそれを現代において実践するとしたらこういうことですよ、と言及する。例えば「先ず我が馬を道下へうちおろして礼すべし」と記したあとで、「武士の間では、たとえ相手より自分の身分のほうが高かったとしても、道を譲ってもらうことが当然だという考えは存在していなかった」と解説した後、こうした上から下に対する礼は、オフィスにおいて毎日お茶を運んでくれる人に対して、ありがとうの一言を心から言うことにつながる、と言及する。お辞儀の仕方や立ち居振る舞いについても書かれているが、「こうすべし」といったハウ・ツーよりも、なぜそうするべきなのかという理由や心の持ち方にウエイトを置いて優しく丁寧に書かれている。そうだよなぁ、そうあるべきだよなぁ・・・・反省すべき点多数。

 子供の頃の我が家は、礼儀作法にはうるさい方だったと思う。もちろん小笠原流礼法の足元にもおよばないが、箸の上げ下げ、茶碗の持ち方、立ち居振る舞いなどなど、母親は口やかましかった。扉をバタンと乱雑に閉めると叱られたし、ランドセルをポイと放り投げようものなら大目玉だった。楽しく漫画を読んでいても姿勢が悪いと叱るのには閉口したものだ。現在の勤め先の社長も礼儀作法を大切にする人だ。取引先と食事をする機会の多い商社ということもあり、箸づかいや宴席でのマナーには特にうるさい。慰安旅行の宴会など、社長に見られていると思うとオチオチ酔っ払ってもいられない(笑)。母親と社長、いずれも一生ものの財産を与えてくれたと思うと感謝の念に堪えない。

 それにしてもこの本のタイトルのとおり、いい大人には礼儀作法を誰も教えてくれない。人前で恥をかくことはまずないと上に書いたが、実は知らぬ間に恥をかいていたこともあろう。そんな不安がこの本を手に取らせたのは間違いない。まずはコーヒーを運んでくれる部下に対し、心をこめて「ありがとう」と言わなくては。

誰も教えてくれない 男の礼儀作法 (光文社新書)
作者: 小笠原敬承斎
メーカー/出版社: 光文社
発売日: 2010/10/15
ジャンル: 和書