若草


 島根県松江の銘菓、「若草」は自分にとって数少ないお気に入りの和菓子だ。緑色をしたそぼろ状の衣をまとった求肥松江藩に伝わる銘菓だ。子供の頃にお土産でいただいたのが最初だったが、何て上品なお菓子なのだろうと子供心に感動したのを覚えている。三連休は病気療養中の弟を見舞うため、鳥取県米子市に行ってきたのだが、松江の銘菓が米子の駅で売っていたので自分のために買い求めた。

 帰宅し荷物を片付け、小箱を取り出す。出雲国・松江、彩雲堂、昔と変らないパッケージが懐かしい。久しぶりの若草、本当はお抹茶と一緒にいただきたいところだが、単身赴任のマンションに抹茶があるわけがない。濃い目のブラックコーヒーとともにいただくことにした。その名の通り若草を思わせる目にも鮮やかな緑色は何度見ても美しい。サクっとした歯触りと求肥のもっちりした弾力、そして上品な甘さが口の中に広がった。

 四季のある日本、お菓子にさえも季節を織り込み楽しむ繊細さは、世界に誇れる日本の文化だと思う。銘菓若草に一足早い春を堪能させてもらったが、春の訪れを誰より待ち望んでいるのは被災地の皆さんだろう。東北の春は遅い。そして、たとえ気温は上がっても、心に春が来るのには何年も何十年もかかるのかも知れない。東北の皆さんにも一日も早く春が訪れるよう心より祈る。