『僕とおじいちゃんと魔法の塔(1)』


 去年読んだ『妖怪アパートの幽雅な日常(1)』の著者、香月日輪(こうづきひのわ)による児童文学。小学六年生の陣内龍神(たつみ)には秘密がある。両親にも兄弟にも絶対内緒の秘密とは、天神の磯にある古い塔に自転車で通っていること。その塔で龍神はなんと、おじいちゃんの幽霊と会っているのだった。龍神のお父さんはいわゆる堅物だ。非科学的なことを認めず、『ハリーポッター』さえも嫌っている。市役所に勤めていて、子供達に対しても、コツコツ真面目に勉強して皆の役に立つ仕事に就く事を願っているのだが、彫刻家だったおじいちゃんは正反対の人(幽霊)だ。生前はかなり変わり者で、ハチャメチャな芸術家だったらしい。龍神はそんなおじいちゃんの幽霊から、今まで思いもしなかった生き方や考え方を教わることになる・・・。

 子供向けの易しく分かりやすい文章なので一気に読み終えた。『妖怪アパートの幽雅な日常(1)』同様、生き方は人それぞれ、決められたレールを歩くのではなく、自分の頭で考え、自分の生きたいように生きれば良いのだ、と教えてくれる本だ。

 父親は子供に対し、今の時代を乗り切っていく能力を身につけてくれるよう願い導く。現役世代なのだから当然といえば当然だ。一方、一歩離れたところにいる「おじいちゃん」は父親よりいくらか高い目線から物を見るのだろうから、孫への教育というのは子へのそれとは一味も二味も違ってくるはず。生憎おじいちゃんの気持ちはかなり想像力を働かせても実感できないのだが、それはおそらく年の功というやつに裏打ちされた力なのだろう。自分の父方の祖父は、はるか昔に亡くなってしまったので会えなかったが、母方の祖父の姿は目に焼きついている。いつも陽気に笑い、真剣な顔つきで碁を打ち、正月は初日の出に柏手を打ち拝んでいた。そんな祖父から知らず知らず受けた影響は少なくないはず。いつの日にか、立派なおじいちゃんになれるよう、自分磨きを怠らないようにせねば・・・などと思ったりして。

 話を『僕とおじいちゃんと魔法の塔』に戻そう。龍神が幽霊のおじいちゃんによって人生の新しい扉を開かれ「学校の勉強がすべてじゃないんだ」と気付き成長するお話は、子供にとってたいそう魅力的だろうと思う。文章も綺麗だ。しかし偏屈な自分としては少しひっかかった。それは、この小説が通信添削で有名な教育企業、ベネッセコーポレーションの「チャレンジキッズ5年生」に連載された小説であるということ。掲載されたのは2000年なので「ゆとり教育」的な考えだろうが、国語算数理科社会を教える教育企業が、「勉強がすべてじゃないんだよ」とは如何なることか?「教育とは総合的な人間づくりなのだ」と言われれば反論の余地はないが、どこか自己矛盾のようなものを感じてしまう。1970年代の受験戦争、受験地獄には弊害もあっただろうが、分かりやすく真っ直ぐだ。ゆとり世代は「君の生きたいように生きればいいんだよー」「自分らしさを大切にねー」と優しく大切に育てられ、いざ卒業してみるとグローバルな競争社会に放り込まれる。なんだかかわいそうな気がしてきた。

僕とおじいちゃんと魔法の塔(1) (角川文庫)
作者: 香月日輪, 中川貴雄
メーカー/出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日: 2010/01/23
ジャンル: 和書