水木しげる記念館


 三連休は鳥取県に行ってきた。米子市で病気療養中の弟を見舞うのが目的だったが、その帰りに一人、お隣の境港市まで足を伸ばした。目指したのは水木しげる記念館だ。小雪降る米子駅を発った2両編成の"鬼太郎列車"の中は、子供連れやカップルで賑わっていた。折からの妖怪ブーム、ゲゲゲブームの影響だろう。列車はおよそ45分で境港駅に到着した。

 駅前から続く「水木しげるロード」は、歩道のあちこちに水木マンガのキャラクターや妖怪たちの銅像が配置されている。鬼太郎やねずみ男猫娘目玉親父は当然のこと、聞いたこともないような妖怪も沢山いる。へー、こんな妖怪いるんだ、と感心していると「あー、○×△だー!」「こっちには□△○がいる!」やけに詳しい一団が大はしゃぎで写真を撮っている。若いお嬢さんたちのグループなのだが、妖怪マニアなのだろうか。ゲゲゲブーム恐るべしだ。鬼太郎や妖怪にあやかったみやげ物や食べ物を売る店が軒を連ね、歩くだけでも楽しい。床屋さんのガラス窓にも鬼太郎や妖怪が描かれているし、もう営業していない商店がシャッターを下すのではなく、店内に妖怪のオブジェを飾ったりして、雰囲気作りに一役買っている。立派なことだ。

 2003年3月8日、漫画家であり妖怪研究家でもある水木しげるの81歳の誕生日に開館した「水木しげる記念館」。生憎の天候のためだろう、三連休にもかかわらず館内は混雑していない。おかげでゆっくりと見学することができた。水木しげるの生い立ちや作品の数々が紹介されていて、原画や妖怪の模型も展示されている。『ゲゲゲの鬼太郎』しか知らなかった自分だが、それは水木しげるワールドのほんの一部にすぎないということを再認識した。二階には水木しげるのマンガがたくさん開放されていて自由に読むことができる。昭和の匂いのする鬼太郎グッズの展示は懐かしさいっぱいだった。

 記念館を出ると雪が降っていた。お昼どきなのに薄暗くて寒く、まるで妖怪でも出てきそうな雰囲気だ。自分は基本的に科学を信奉しているけれど、人知を超える存在を頭から否定できるほど脳天気ではない。それ程遠くない昔、人々は人知を超えた存在を信じていた。お化けや妖怪を恐れ、神々を敬う暮らしがあった。今はやりの”スピリチュアル”や”パワー・スポット”なる言葉とは似て非なる世界観。妖怪は人間のすぐそばにいたようだ。しかし文明はそれらを退け、人間は地上の帝王として君臨しているかのように見える。でも、実は今頃妖怪たちは人里離れた山奥かどこかで「ここ2、300年、人間は随分エラソウになったものだ」「そろそろお灸をすえてやるか」などと話しているのかも知れない。雪降る境港の街、そんな事を考えながら再び列車に乗り、大阪への帰路についた。