『阪急電車』


 8月17日のブログに書いた、色々な本やCDを貸してくれる勤め先の後輩のI君が貸してくれた一冊。大阪に転勤する直前、大阪つながりということだろうアリガトウ。

 阪急電鉄の今津(北)線という路線を舞台にした小説。宝塚駅から西宮北口駅まで、全部で8つある駅の一つひとつが章になっている。各章が独立した短編集で、それぞれの駅で乗り降りする人たちがそれぞれの章の主人公になる。ある章で脇役の人が次の章では中心人物になり、微妙に影響を与えあう。気分が悪くなり途中下車し主婦た康江は女子大生ミサに介抱される。そのミサは車内で大声で話す女子高生えっちゃんの会話に勇気づけられ、DV彼氏と別れる決意をする。孫娘と二人阪急電車に乗った時江の一言で翔子は人生の新しい一歩を踏み出す・・・。

 袖振り合うも他生の縁。電車という密閉された空間の中にたまたま一緒になった全く無関係の人間同士が影響を与え合うというのは小説だけのことではないはず。実際、聞く気はなくても飛び込んでくる会話に思わず噴き出しそうになったり、横柄な態度に腹が立ったりする経験は誰にでもあるだろう。幸か不幸かそれが自分の人生に大きな影響を与えたことは未だ無いけれど、それは車中の自分が回りの人たちを人間ではなく風景と思っているからだろう。悲しいことだけれどある意味仕方がない。昔むかしの村落社会に生きていたなら、一生かかっても会いきれない程の人数の人間たちと出会いすれ違うのが都会の鉄道や駅という空間だ。その一人ひとりを人間としてとらえ挨拶を交わし自己紹介をすることはもちろん不可能。お互いに無関心を決め込むのは防衛反応でもある。「都会の孤独」の見本のようなものだろう。

 人との出会いやふれ合いを否定する気はなくとも、毎日の一定時間、多くの日本人が仮面をかぶり心を閉ざして過ごしているというのは、考えてみれば少しもったい気がする。回りの人をウォッチングして、会話に聞き耳を立ててみよう。この本のようなドラマは期待できないけれど、阪急電車ではなく地下鉄御堂筋線だけれど、毎日の通勤が少し楽しみになった。

阪急電車 (幻冬舎文庫)
作者: 有川浩
メーカー/出版社: 幻冬舎
発売日: 2010/08/05
ジャンル: 和書