『どこでもオフィス仕事術』


 著者の中谷健一が実践している「ノマド(=遊牧民)ワーキング」すなわちオフィスのデスクに縛られず、オフィスの外で働く技術を紹介した本。インターネットに接続できるノートパソコンを中心とした仕事術だ。

 商社の営業マンという仕事柄、出張は多い。新幹線に乗らない週は殆どないし、飛行機に乗らない月もない。外出先でもノートパソコンを開いて仕事をするというスタイルは7-8年前から日常の一部になっているので、自分はすでに「ノマド」の一員なのだろう。したがってこの本の大方の部分では目新さを感じなかったけれど、オフィスと自宅以外の仕事場「サードプレイス」を著者ならではの観点で分類して紹介しているところは大いに参考になり面白かった。ちなみに電源が使え仕事がはかどる「SOHOスポット」、ムードが良すぎて仕事にならない「リゾート・スポット」、電源もなく雰囲気も良くないが意外とはかどる「ポテンシャル・スポット」、逆にちっとも仕事ができない「コールド・スポット」などが上げられている。自分なりのサードプレイスの一覧表でも作ってみようか。

 今でこそ普通に「ノマドワーキング」をしているが、昔は随分違った。初めてコンピュータを買ったのは1990年のこと。NECのPC9801NSというノートパソコンだった。重さは3kg近くあったが、A4ファイルサイズ、チョット重いけれど外に持ち出すことは可能だ。オフィスの中でも外でも自宅でも、このマシンを使って仕事ができるゾ!と勢い込んでボーナスをつぎ込んだ(高かった!)。しかし当時は一営業マンがパソコンを使ってやる仕事、というものがそもそも無かった。資料は手書きが基本。計算は電卓かそろばん。インターネットなんて言葉はまわりの誰も知らなかった。従って、パソコンを使わなくてもできる仕事をわざわざパソコンでやる、ということになり、どこか本末転倒なテイストを漂わせていた。当時新人の部類だった自分を「アイツ何やってんだ?」と怪訝な目で見ていた先輩諸氏が思い出される。オフィスの外へ持ち出したことも何度かあったが、周囲の視線はすごかった。喫茶店で仕事をしていて、ディスプレイから目を上げると、たいてい誰かと視線が合った。「ノートパソコンで仕事をしている人を実際に見たのは初めて」という人が多かったのだろうから無理もない。きっとその日の夕ごはんの話題になったのだろう。そんな状況を「皆から注目されて、僕ってカッコイイ!」と酔える程お調子者ではなかったため、どちらかというと居心地が悪かった。バッテリーの持ちも良くはなく、外出先に持っていく事はほとんど無くなってしまった。10年一昔というけれど、二昔前はこんな状況だったことを思い出した。

 出張でよく訪れる松山市。JR松山の駅前にある「時計台」という喫茶店はよく利用させてもらっている。落ち着いた雰囲気とすわり心地の良い椅子があり、サイフォンで入れてくれるコーヒーは最高。一口味わってからおもむろにノートパソコンの電源を入れる。自分のサードプレイス一覧の筆頭はこの店だな。

「どこでもオフィス」仕事術―効率・集中・アイデアを生む「ノマドワーキング」実践法
作者: 中谷健一
出版社/メーカー: ダイヤモンド社
発売日: 2010/06/04
メディア: 単行本

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