『衆愚の時代』


 「そりゃ違うだろう」と思ってもそう言うことのできない現代日本。著者の楡周平は1957年生まれの作家。「世間の糾弾を浴びることを覚悟で」率直な意見を書き綴ったという一冊。

 本書の前半では派遣切りやひきこもり、就職難などを切り口にマスコミ、特にテレビというメディアに食ってかかる。テレビに登場するニュースキャスターや学者、識者たちは耳ざわりのいい言葉を操ってはいわゆる弱者と呼ばれる人々の側に立つ。そして問題の原因を個人に求めず、社会、政治、国の問題へともっていく。そんな彼らの語る「べき論」に著者は異をとなえる。リーマンショック後の不況下、メディアで取り上げられ問題となった「派遣切り」。著者は「派遣労働」を今の日本において欠かせない雇用システムだと断った上で、「派遣切り」は悪くないと言い切る。まっとうな意見だと思う。後半では格差社会高齢化社会、マニュフェストなどを取り上げ民主党鳩山政権にもの申す。幅広い調査と丹念な分析の結果としての結論、というよりは、著者の本音がほとばしるように書かれている。多分に主観的ではあるが、経験を積んだ大人の真っ直ぐな意見だと思う。

 マスコミ、特にテレビは社会の公器であると同時に、スポンサーの意向と熾烈な視聴率競争を課せられる営利企業だ。そこに登場する面々も、その営利の分け前を貰い生活する雇われ人に違いない。いかに社会正義を訴えようが、そもそも常にニュートラルではあり得ないモノなのだ。また、毎日毎日新しいネタを供給し、視聴者をTVの前に釘付けにし続けなければならないのだから、深く掘り下げ、検証しつくした難解な真理より、分かりやすくウケが良い最大公約数的な意見に傾くのもある意味仕方がない。しかし、その影響力、特に若い世代への影響力はものすごく大きい。現代日本人の頭の中身の内、テレビ経由の二次情報の占める割合はかなり高いのではなかろうか・・・。それならば、そんな浅薄な考えから目を覚ませてくれるような筋の通った意見を国の指導者たちに期待したいのだが、本書の後半によると、それも期待薄のようだ。『衆愚の時代』とは的を得たタイトルだが、そろそろどこかで卒業したいものだ。

衆愚の時代 (新潮新書)
作者: 楡周平
メーカー/出版社: 新潮社
発売日: 2010/03
ジャンル: 和書