『17歳のための世界と日本の見方』


 編集工学の松岡正剛帝塚山学院大学人間文化学部で一年生向けに行った「人間と文化」という講義を本にしたもの。全部で5講、大学生になったばかりの若者に優しい口調で文化、物語、宗教、日本などについて語っている。

 文化論、宗教論ならいろいろあるが、松岡正剛ならではの「編集」的見地からのアプローチは新鮮だ。第三講「キリスト教の神の謎」の中で、キリスト教発祥においてパウロの果たした役割を「情報編集」だという。なるほど、イエスとは会うことのなかったパウロローマ帝国の各地にキリストの教えを伝え、キリスト教の基礎を築いたその背景には、イエスの死後に得た情報をパウロパウロなりに整理し編集する作業が必要だ。その編集能力が人並み以下だったら現在のキリスト教は存在しなかったかもしれない。

 高校を出たばかりの女の子に世界と日本の文化を語るというのは、いかにも大変な作業だ。松岡正剛ほどの知識がある場合、そのどれを語り、どれを語らないかが思案のしどころ、まさに編集だ。この本、17歳にとっては今後自ら掘り下げ深めていく際の知の指針として優しく導いてくれるだろう。一方、我々大人にとっては、ゴチャゴチャの頭の中を優しく整理してくれて有り難い。いやいや、セイゴオ先生が優しくしてくれるのは17歳の女子大生限定だろう。

17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義
作者: 松岡正剛
メーカー/出版社: 春秋社
発売日: 2006/12/25
ジャンル: 和書