秋の夜長の過ごし方

 日没前後のひと時、秋の夕暮れを楽しむ。ビルの窓の一つひとつがオレンジ色に染まり、空に赤から濃紺への見事なグラデーションが描かれるのを見ながら「日が短くなったなぁ」とお決まりのセリフをつぶやく。頭の中に昔聴いたメロディが流れる。仕事はもうこの位にして、さてどこ行こうか・・・。秋は夕暮れが早くなるから「夜長」なのかもしれない。

 夏はグダグダになった体をよく冷えた生ビールで復活させ、脂っこい料理でスタミナつけ「明日も頑張りましょう!」というノリなのだが、秋のお酒は心なしか落ち着きがあるから不思議だ。瓶ビールを手酌で飲みながら銀杏、秋刀魚、カキフライ。お代わりは芋焼酎をお湯割りで・・・自分のオーダーで秋を演出しては悦に入る。カワハギに土瓶蒸しも忘れちゃぁいけない。四季のある国に生まれて本当に良かったと思うのはこういう時だ。

 スタートが早いから時間はタップリ、まさに秋の夜長なのだけれども、ほどほどにして家路につく。駅から自宅までほろ酔い気分の道、虫の声と白い月を愛でながらゆっくり歩く。夏や冬だとこうはいかない。エアコンの効いた部屋とビール、熱い風呂などをめざしどうしても足早になってしまうのだ。心地よい秋の風に吹かれながらゆっくり歩いているといろいろな事が心に浮かぶ。何年か前の秋のこと、昔旅行したこと、以前飼っていたうさぎのこと、長く会っていない友のこと。日ごろ意識の表層に上ってこない記憶の断片に思わず頬が緩み、懐かしい気持ちになる。

 秋の夜長にはおいしい料理と懐かしい思い出が似合う。