冬の道後温泉


 四国松山への出張帰りに道後温泉を訪れた。漱石の「坊ちゃん」にも登場する道後温泉、古くは聖徳太子も訪れたという歴史ある温泉だ。この冬一番の寒さとなったこの日、肩をすくめながら道後温泉本館の入り口をくぐった。

 実は2年前の2009年にはとても頻繁に道後温泉に足を運んでいた。当時はリーマンショック後の不景気で、経費節減のために夜行バスでの出張を敢行していたのだ。前夜にバスに乗り込み、早朝6時に到着、道後の湯で体をほぐした後、一日働く。夕刻再び道後で湯に浸かってからバスに乗り込むというパターン。車中二連泊はキツかったが、道後の湯に助けられた一年、2月から11月までの10ヶ月で26回も道後温泉のお世話になった。そんなある日の事をここに書いたが、早いものでもう2年も経った。

 2年ぶりの道後温泉本館。400円払って中に入ると見慣れた光景が広がった。脱衣場でロッカーに昨年新調したキャスター付きのカバンを入れるのに手間取っていたら、横にいたお爺さんが下にあるスノコを外すと入れやすいとアドバイスしてくれた。ありがたい。ついでに、男湯には二つ浴室があるのだが、元々は向かって左側の東浴室が男湯で、右側の西浴室が女湯だったのだと教えてくれた。知らなかったふりをしてそうですかと相槌を打つ。浴槽でもご一緒させていただき、あれこれお話を聞く。ご近所に住まわれ、歳は80だという。子供さんのこと、薬剤師をしている孫娘さんのこと、高野山や北陸への旅行のこと・・・問わず語りに心が和む。洗い場ではシャンプーを分けてくれた。本当にありがたい。

 二つある浴室を西→東→西と巡ると体の芯まで暖まった。お爺さんに礼を言い別れを告げる。四国には八十八箇所を巡るお遍路さんに食べ物や宿を提供する「お接待」という風習があるという。自分はお遍路さんではないが、古くから伝わるホスピタリティの片鱗を感じさせてもらった。お爺さんどうぞお元気で。居酒屋で軽く一杯引っ掛けた後、ガラガラとキャスター付きカバンを引きずってバス乗り場へ。今回の出張、帰りの便が満席で取れなかったのだ・・・・。