『坂本真綾LIVE TOUR 2009』

 「実力派女性シンガー」という言葉がある。この言葉から多くの人が思い描くイメージは恐らく、豊かな声量、太い声、パワフルでワイルドな音楽…R&B系の女性シンガーの影響が大きいのだろう。しかし、全く違うタイプの、「実力派女性シンガー」を見つけた。坂本真綾だ。

 坂本真綾は声優としてのキャリアが長い。子役時代から20年以上のキャリアがある。「声優で歌手」と言われるとかなりマイナスイメージを抱いてしまい、正直引いてしまうのだが、心配は無用。それどころか、自分の声を使っての表現という点では二つは共通する職業であるし、紙に書かれた「台本」を自分の声で音声としての「セリフ」にする作業は、「音符」を「歌」にする作業とかなり近い。本質的にはどちらも正解を一つに決められない世界で、数あまたあるバリエーションの中から、最適と思われる音を選び、形にするという仕事だ。

 例えば、フレーズの最後の二分音符をどう歌うか、正解は一つじゃない。頭は拍ぴったり?それともほんの少し遅れて入る?長さはしっかり二拍、それとも一拍半くらい?強さはそのまま?デクレッシェンド?メッサディボーチェ?ビブラートはタップリ?いや、最後の方で控えめにかけてみようか。あと、弱めに前打音を半音下からつけて、最後消えるまえに音程をチョットだけ上げてみようかぁ…。その他のファクターも含め、無限にある組み合わせの中からBestな組み合わせを選択し表現できるのが「実力派シンガー」の大切な要素の一つだ。

 さて、坂本真綾だが、通算6枚目のアルバム「かぜよみ」をひっさげて久々に行ったツアーのライブDVD。しっかりリハーサルを重ねたのだろう、バンドとの息もぴったりで、良く作り込まれた一曲一曲を実に丁寧に歌っている。声優なら当然かもしれない、多彩な歌声が音楽表現の広がりにつながっている。パワフルでも、ワイルドでもない、どちらかというと可愛らしい声だけれど「実力派女性シンガー」だ。
坂本真綾LIVE TOUR 2009 “WE ARE KAZEYOMI!” [DVD]