『スカイ・クロラ』

 昨年夏公開のアニメーション映画『スカイ・クロラ』を観た。The Sky Crawlers=空を這う人々。森博嗣の小説を押井守がアニメーションで映像化したものだ。

 完全な平和が実現した世界で「ショーとしての戦争」を戦う「キルドレ」という子供達。彼等は永遠に思春期の姿のまま生き続ける・・・というのがこの作品の設定。「何だよソレ?」が最初の感想。実は『スカイ・クロラ』を観るきっかけになったのは、会社の後輩が貸してくれた森博嗣の小説『レタス・フライ』。これは短編集なのだけれど「何だよソレ?」と思わせる設定が多い。常人には考え付かないような世界、思いもよらない出来事がポンポン惜しげもなく出てくる。「うーん、頭の良い人なのだろうなぁ」と思っていたら、経歴に「某国立大学工学部助教授」とある、やっぱり。

 さて『スカイ・クロラ』。最新の映像技術を駆使し、空や雲や雨などの自然やそこを飛ぶ飛行機が、実写と見間違うほどリアルに再現されている一方で、登場する人物はデフォルメされた所謂マンガ調。最初の数分間は違和感を感じたけれども、いつの間にか馴染んでしまっていたから不思議だ。滑走路を抜ける風や背景の町並み、夜の酒場の明りなど、造り込まれたこだわりが感じられる。「実写以上にリアルなCG」と呼ばれる作品は多いが、それら以上に本物の匂いがする。これが押井ワールドなのだろう。

 「何だよソレ?」という設定なのだけれど、物語りは驚くほど静かに進む。もちろん戦闘シーンもあるのだが、それを淡々とこなす彼等の日常が描かれている。森博嗣押井守。二人の常人離れした才能が昇華された作品だ。
スカイ・クロラ [DVD]