『白夜行』


 10年ぶりに再会した友人と飲んだ。それぞれの仕事のことや近況を交換しあい、旧交を温めた楽しいひと時。酒が進むうちに読書の話になり、彼の一押しが東野圭吾の『白夜行』だった。東野作品は加賀恭一郎シリーズの『赤い指』『新参者』ガリレオシリーズ、そして『放課後』『宿命』『さまよう刃』などを読んできたが、『白夜行』は未読。名作の誉れ高いのだが、あの分厚さに手を出せずにいた。律儀にも集英社文庫を郵送してくれた彼の好意に応えるべく、週末を通して読みきった。いやぁ、スゴイ本だ。

 19年前に起きた質屋の店主殺し。被害者の一人息子桐原亮司ははどこか影のある小学5年生。手先が器用で切り紙細工はそれを見た刑事を唸らせるほどの腕前だ。一方容疑者とされた西本文代の一人娘、雪穂は目の大きな、陶器のような白く肌理の細かな肌をした利発な少女。事件の後母親と死別し、遠縁に引き取られていく。事件は迷宮入りとなるが、子供達の境遇を大きく変えた。被害者の息子と容疑者の娘。二人の接点はそれだけのように見えたのだが・・・。

 文庫で3センチ5ミリの分厚さは伊達じゃない。亮司と雪穂を軸にした大長編、19年間の大河ドラマとも言える。巻末の解説では馳星周ノワールNOIR)の傑作と絶賛しているが、なぜか亮司と雪穂を「悪いヤツ」とは言い切れない。この物語の結末がそう思わせるのか、厚さ3センチ5ミリを読むうちに情が移ったからなのか。

 物語の始まりである「19年前」とはいつなのか。作中の記述によると、熊本水俣病が結審し、巨人がV9を達成し、あしたのジョーが連載を終えた年、それは1973の事のようだ。当時桐原亮司は11歳だったのだから1962年の生まれということか。おっと、自分と3つ違いだ。東野圭吾は本作で不必要ではないかと思えるほど、そのあたりの時代描写に熱心だ。国鉄インベーダーゲームオリビア・ニュートン・ジョンパソコン通信、聖子ちゃんカット、バブル崩壊・・・。読んでいて懐かしさが炸裂しまくり、フィクションと分かっていても感情移入してしまう。そういえばこの本を薦めてくれた友人もほぼ同世代、このあたりの味わいは共通なのだろう。そしてこれも同世代のよしみなのだろうか、雪穂のその後が気にかかるなぁ・・・・。

白夜行 (集英社文庫)
作者: 東野圭吾
出版社/メーカー: 集英社
発売日: 2002/05
メディア: 文庫