『レイジング・ブル』


 元世界ミドル級チャンピオン、ジェイク・ラモッタの半生を描く。監督はマーティン・スコセッシ、主演のロバート・デ・ニーロが、現役時と引退後とのラモッタを演じ分けるため体重を27kg調節したのは有名なエピソードだ。 ジェイク・ラモッタはイタリア系のボクサー。1949年、世界ミドル級チャンピオンのセルダンに10ラウンドTKOで勝ちチャンピオンとなる。前へ前へと突き進むそのボクシングスタイルからRaging Bull(怒り狂った牡牛)と呼ばれていた。この作品の前半で描かれる1947年ニューヨークでのジェニロ戦で相手の鼻のへし折るシーンなどはRaiging Bullそのものだ。

 大半がモノクロ画面で構成されるこの映画、激しい試合のシーンと、試合に負けず劣らず激しいラモッタのプライベートが交互に描かれる。それにしても、この映画で描かれるラモッタは粗野で下品で異常なほど嫉妬深い。ブロンドが美しい妻ビッキー(キャシー・モリアーティ)の不義を疑うところなど、尋常ではない。せっかちで食べ物にもうるさく、食事中に怒ってテーブルをひっくり返す。正直とんでもない男で、もし身近にいたとしても付き合いたくないタイプだ。しかし、そんな彼をどうも憎めない。恐らく粗野で下品で異常なほど嫉妬深いラモッタは自分の内面にもいるからだろう。躾けられ、教育を受けることで表立った行動には出ないけれど、心のコアの部分、原始的で野生的な部分で共感しているような気がする。