『禁断のパンダ』


『禁断のパンダ』拓未司
 「何だよそのタイトル?」というのが第一印象。薦めてくれた後輩によると、『美味しんぼ』のようなミステリー。とにかく料理の描写がスゴイのだという。文庫の帯には”グルメ・ミステリー”の文字。何じゃそりゃ?著者の拓未司は元フレンチレストランのシェフだというからあなどれない。

 舞台は港町神戸。フレンチレストラン<ビストロ・コウタ>のオーナーシェフ柴山幸太は妻の友人の結婚式に参列する。妻の綾香は妊娠八ヶ月、最近はネットオークションで自作の服を売ることに夢中だ。神戸ハーバーランド北にあるチャペルで結婚式は開かれ、披露宴は併設されたフレンチレストラン<Cuisine de dieu キュイジーヌ・ド・デュウ>でのフルコース。幸太はこのフルコース味わいたさに参列したようなものなのだが、何と新郎の父親が披露宴の前に忽然と姿を消してしまう・・・。披露宴は物語の最初の方、第一章のエピソードなのだが、この一章で拓未司の”グルメ・ミステリー”作家としての才能が存分に発揮される。美味しそうな料理の数々が香りと湯気とを伴って読むもの目の前に浮かぶ。おぉ『美味しんぼ』みたいというのはこのことか。

 ”グルメ・ミステリー”というカテゴリは初耳だが、何々ミステリーと呼ばれる作品は”何々”の部分とミステリーの部分との按配が難しい。書き手としてはミステリー好きと”何々”好きの両方を満足させなければならない。本作では、事件を追う刑事たちによるミステリーの世界とディープなグルメの世界とが、フルコース料理の一皿一皿のように代わる代わる読者の前に給仕される。幸太と綾香夫婦の関西弁でのやりとりは、さながら上品な付け合せのようで読者の心を和ませる。楽しく読みやすくどんどんページが進むのだが、そこかしこに謎を解く鍵が隠されているから見逃せない。そしてコースの最後にはとびきり衝撃的な結末が用意されている。驚いた!

禁断のパンダ 上 (宝島社文庫 C た 4-1)
禁断のパンダ 下 (宝島社文庫 C た 4-2)
作者: 拓未司
出版社/メーカー: 宝島社
発売日: 2009/10/06
メディア: 文庫