『アパートの鍵貸します』


 C.C.バクスターは明るい性格だが頼まれると断れないタチ。彼は従業員3万人を超える大手保険会社の平社員。大きなビルの19階にある保険料計算課、体育館のような広いオフィスで電算機に向かうのが仕事だ。彼はセントラルパーク近くにある家賃85ドルのアパートで一人暮らし。タイトルの「アパートの鍵」とはこの部屋の鍵のこと。バクスターは会社の課長たちに愛人との密会の場所として自分のアパートを提供しているのだ。見返りは出世、「昨日はすまなかったな。昇進の件だが、君を推薦しておいた・・・・」こんな具合だ。しかしどこで聞きつけたのか部長のシェルドレイクからお呼びがかかり、鍵を貸すことになってしまう。思惑通りバクスターは管理職になり、個室をあてがわれるようになるのだが部長のお相手がよりによってバクスターが心惹かれているエレベーターガールのフランだったとは・・・・。

 1960年のアメリカ映画。バクスター役はジャック・レモン。頭の回転が早いわりには、今ひとつぱっとしない、お人好しの優しい青年を好演している。エレベーターガールのフラン役はシャーリー・マクレーン。とびきりの美女じゃぁないけれど明るくて元気、エレベータの操作をする時、くるりと手首を回す仕草が可愛らしい。自分の会社にもいそうな女の子だ。バクスターから鍵を借りる4人の課長やシェルドレイク部長もこれといって特徴のない普通のオヤジ、あえて言えばチョイ悪オヤジだ。そう、この映画はどこにでもありそうな話として作られている。ヒーローも大悪人も出てこない。

 どこにでもありそうな話だったのだろうが、隔世の感も否めない。バクスターのオフィス、ずらりと並んだデスクで電算機に向かう社員はざっと200人。今だったら一台のコンピューターで片付いてしまうのかも。エレベーターガールという職業も今は昔だ。そして映画全体を包む世界観の違い。当時日本は高度経済成長時代だったのだが、アメリカの景気も良かったのだろう。右肩上がりの業績、新しいポストも必要となり、「昇進の件だが、君を推薦しておいた・・・」なんて事もアリだったのだろう。日本で流行した植木等が主演するクレージーキャッツ東宝映画の世界観と少し似ている。物語のベースの部分なのだけれど、ここが隔世の感一番だ。

 そんな物語の背景を楽しむのもよし、バクスターの軽妙なセリフと、フランのどこにでもいそうな可愛らしさを楽しむのもよし。モノクロ画面をゆったりと楽しみ、ハッピーな後味に浸れる、そんな作品だ。


アパートの鍵貸します [DVD]

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