あすなひろし

 『青い空を白い雲がかけてった』は中学生のツトムと両親、幼なじみの女の子ヨシベエ、番長、担任の夏子先生といった面々の楽しい日常を描いた漫画。1970年代後半、当時の人気少年誌だった少年チャンピオン不定期に掲載されていた。その作者、あすなひろしが2001年に亡くなっていたことを今朝知った、思いは30年前へ飛んだ

 どこかへ旅行に行く道中だったと思う。たまたま買ってもらった少年チャンピオンに掲載されていたのが出会いだ。中学の1年か2年生の頃だったと思うが、自分はこのマンガがとても気に入り、後に単行本を買い求めた。自分と主人公のツトムとは中学生であるという事以外に共通点は少なかった。ヨシベエのような幼なじみもいなかったし、自分の親はツトムの両親とは全く違うタイプだった。境遇は似ていなくても、少年から青年への過渡期の心にピッタリくるものがあったのだろう。『青い空を白い雲がかけてった』1〜3巻に加え、あすな氏の他作品『ぼくのとうちゃん』『哀しい人々』なども入手し、受験勉強の合間に何度もくり返し読んでいた。

 今も昔も中学時代というのは、それまで知らなかった、知らなくてよかった大人の世界が見えてくる時期だ。自分の周囲にも、まだまだ子供のままのヤツがいたし、親や学校に対し激しく反発するヤツもいた。自分はというと、正面から反抗する気にはなれず「まぁ、そんなもんだろうよ」と分かったふりをしていた。大人になったつもりでいた。そんな頃に出合った、あすなひろしの作品には大人の世界が何気なく描かれている。例えば『青い空を・・・』の主人公ツトムのまわりにいる先生や両親が時おり見せる大人の一面。それは哀しさや大人同士の優しさのようなもの。多くの場合、ツトムはそれを理解できないのだが、幼なじみのヨシベエは理解する。そして理解できないツトムを子供だとバカにするのがお決まりのパターンだ。それを読む自分はというと、頭で理解できなくもないがリアリティーはゼロ。背伸びしていることが自分でも分かる。ツトムと同じだ。しかし繰返し何度も読むうちに「大人は皆哀しみを背負って生きている。だから人に優しくする」ということが妙にストーンと素直に入ってきた。当時同じ事を親や先生から言われたら絶対理解しようとしなかっただろう。そしてこの事は今でも自分の心のベーシックな位置を占めていると思う。

 あすなひろしは2001年3月に肺がんで亡くなったそうだ。享年60歳(手塚治虫、石森ノ森章太郎と同じだ)。熱心なファンの方が追悼サイトを作っていらっしゃった。かなり充実した内容なので、じっくり拝見しようと思う。